リクルートEd-tech総研(東京都千代田区、所長:森崎 晃、以下Ed-tech総研)は、教育現場でますます広がりつつある「非対面・非同期の学び(*)」におけるICT教材・オンライン教材の活用実態を明らかにすることを目的に、全国の通信制高校に対して、教材の導入状況、同メリット、また成績評価等への活用状況に関する調査を実施しましたので、その結果を報告します。
(*)非対面・非同期の学び : 学びを進めるにあたって、学習者である児童生徒と支援者である教員等が必ずしも対面・同時に取り組むのではなく、一人ひとりの学習者にとって最適な場所や時間、ツールも活用しながら取り組む、近年その存在感を増しつつある新たな学びの形態を指します。
調査結果(サマリ)
非対面・非同期の学びの先進領域ともいえる通信制高校では、約6割の学校で何らかのICT教材が日常的に活用されていること、またそのメリットとして「繰り返して学習することができる」「学習内容がわかりやすく編集されている」「生徒の習熟度に合わせることができる」等が実感されていることが分かりました。
上記のメリットにも通ずる、導入済のICT教材に共通する特徴として、講義動画といった理解コンテンツが備わっていること、個々に最適な学年や単元を選んで取り組むことができることが挙げられ、市販教材では有償教材では「スタディサプリ高校講座」が、無償教材では「NHK高校講座」がもっとも多く使用されています(両教材を併用する学校も多く存在します)。また、ICT教材を利用している学校のうち7割が、生徒がICT教材を用い取り組んだ学習ログを「成績評価」の材料として活用していることも明らかになりました。
通信制高校の各現場に蓄積されたこれらの先進的な知見は、高校はもちろんのこと、小学校や中学校においても不登校支援の観点から今後進むであろう学習ログを用いた「成績評価」にも大いに活きるもので、Ed-tech総研として今後も継続して調査と発信をしていくものです。
調査概要
・調査名称: 通信制高校のICT教材・オンライン教材利用に関する調査
・調査目的: 教育現場でますます広がりつつある「非対面・非同期の学び」におけるICT教材・オンライン教材の活用実態を明らかにすること
・調査期間: 2024年7月25日 〜 9月13日・インターネット回答締め切り
・調査方法: インターネット調査 ※調査案内を郵送、記載のURLからインターネット回答
・調査対象: 全国の通信制高校271校
・集計対象: 69校(回収率25.4%)
(全体回答から無回答であったものを除き、設問ごとに有効回答を母数とし算出しています)
回答校プロフィール
■学校の所在地
■設置者区分
■生徒受け入れ地域範囲(広域制、狭域制)
調査前提と経緯
Ed-tech総研では、「先進事例を発信することで、『悩んでいるのは自分だけではなかった』『このように取り組めばうまく行くのだ』と感じ一歩を踏み出す教員と支援者を、増やしていく」をコンセプトに、情報発信、調査・研究に取り組んでいます。
通信制高校は1960年ころまでには学習指導要領の適用や高卒資格の取得といった、制度上は現在と同様の形態に至っていたものです(高等学校は全日制・定時制・通信制の3種に分かれるという体制は未だ不変です)。しかしその姿は、すなわちどんな生徒を受け入れ支援・指導しているかという実態は時代にあわせ大きな変遷を遂げてきました。具体的には、当初は勤労若年層を主な生徒としていましたが、近年では働きながら学ぶ生徒の割合が減少し、生徒像は多様化しています。特に、中学校までの期間に、学力不振や不登校といった、学校から遠ざかる経験を持つ生徒が増加したのです(*1)。いまでは通信制高校に在籍する生徒の数は29万人を超え(2024年度)、直近9年連続で増加し過去最多を更新しています。
不登校の児童生徒が増加し、その支援の必要性が多く叫ばれるようになったいま(*2)、その観点でも通信制高校には先進的な知見が蓄積されているとEd-tech総研では考え、「非対面・非同期の学び」におけるICT教材・オンライン教材の活用実態、そして「成績評価」の運用実態を明らかにすることを目的に本調査を実施することとしたものです。
なお、通信制高校はインターネット普及以前から存在するのであって、その「通信」は元来、郵送によるやりとり(教材の授受や添削指導に用いるレポートの往復も含めて)を指していたのであって、制度上もICT教材の活用が前提となっているわけではないこと、換言すれば、学習サイクルの中にICT教材を取り入れるかどうかは全日制高校や定時制高校と同様に必要に応じ行われた判断によるものであることを付記しておきます。
(*1)通信制高校の歴史と経緯については下記レポートでも取り上げています
非対面・非同期の学びにICT教材をどう活用するか〜通信制高校での取り組みを例に考える〜
(*2)文部科学省では2024年8月、ICTを活用した場合を含む、学校外での学習についてもその成果を成績評価に反映する旨の法令改正を公表しました
不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果の成績評価に係る法令改正について
調査結果①(ICT教材・オンライン教材の導入状況)
ICT教材・オンライン教材の導入状況は下記であることが分かりました。
・62.1%の学校がICT教材を導入済(デジタル教科書も含めて集計すればその割合は66.7%まで上昇)
■利用教材(種別) 有効回答数=66
・使用しているICT教材は、市販のオンデマンド教材(45.5%)、学校独自製作のオンデマンド教材(30.3%)、デジタル教科書(12.1%)、学校独自のリアルタイム配信授業(10.6%)の順に多い
■利用教材(詳細) 有効回答数=66
・ICT教材・オンライン教材を導入済である学校(デジタル教科書のみを利用している学校は除く)に関して、具体的な教材名としては、有償教材では「スタディサプリ高校講座」が38.5%、無償教材では「NHK高校講座」が69.2%でそれぞれもっとも多く利用され、また独自開発教材(43.6%)も挙げられている
■利用教材(具体名) 有効回答数=39
調査結果②(ICT教材・オンライン教材のメリット実感)
ICT教材・オンライン教材の利用によって生まれているメリットは下記の通り実感されていることが分かりました。
・学習者である生徒の学習デザイン観点では「繰り返して学習することができる(72.1%)」「学習内容がわかりやすく編集されている(57.4%)」「生徒の習熟度に合わせることができる(52.5%)」ことなどが多く挙げられている
・支援者である教員の業務観点では「生徒の学習記録の管理が容易である(52.5%)」「教員の労働時間削減に役立つ(42.6%)」「レポートの提出や採点・返信ができる(32.8%)」ことなどが挙げられている
■ICT教材・オンライン教材の利用によって生まれているメリット実感 有効回答数=61
調査結果③(学習ログ・データの活用状況と成績評価への反映)
生徒がICT教材・オンライン教材を利用し取り組んだ、その学習ログ・データの把握状況については下記であることが分かりました。
ICT教材・オンライン教材を導入済である学校(デジタル教科書のみを利用している学校は除く)のうち、学習ログ・データを取得し把握するサイクルを回している学校は52.6%に留まります。なお、特に無償教材の中には仕組み上、ログ・データを取得することができない教材が多いこともあって、運用上の工夫を施すことで、具体的にはフォーマットへの記録や視聴記録の提出といった手法をとることで、補っているケースも多く存在します(視聴記録を提出(68.6%)、フォーマットに記録(5.7%))。
これらの両設問が事実上、一方は単数回答、もう一方は複数回答となっていることもあり、学習ログ・データを取得し把握するサイクルを回している学校は52.6%より多いと考えられます。
■学習ログ・データの把握状況 有効回答数=38
学習ログ・データの把握状況(手法) 有効回答数=35
次に、取得した学習ログ・データを「成績評価」に反映しているか、を回答結果から確認すると、ICT教材・オンライン教材を導入済である学校(デジタル教科書のみを利用している学校は除く)のうち、68.6%の学校で「成績評価」への反映が行われていることが分かります。これは、全日制高校や定時制高校、小学校や中学校の現状(オンラインを含む学校外での学習を「出席扱い」する取り組みは浸透しつつあるが、「成績評価」に用いることはなかなか浸透せず、前述の文部科学省による法令改正の発布にもつながった)と比べれば、多くの学校で実践がすでに行われている、ということができます。
■学習ログ・データの「成績評価」への反映状況 有効回答数=35
学習ログ・データは「成績評価」を行うにあたって、どのように活用されているのでしょうか。導入されているICT教材のうちもっとも多くを占めた「市販のオンデマンド教材」を例に取り上げます。
通信制高校では「成績評価」を構成する要素は大きく3要素あり(*)、「スクーリング(面接指導への出席)」「レポート(添削指導の提出)」「試験(学期ごとの定期試験)」です。
(*)通信制高校における「成績評価」の要素については下記レポートでも取り上げています
非対面・非同期の学びにICT教材をどう活用するか〜通信制高校での取り組みを例に考える〜
学習ログ・データを成績評価に活用している学校のうち、もっとも多いのは「自学自習用教材として(73.3%)」ですが、直接的に「成績評価」に関わる要素としては「面接指導のスクーリング回数免除に(56.7%)」、「添削指導の補助教材として(46.7%)」、「テスト/単位認定試験として(3.3%)」の順でした。
■学習ログ・データの「成績評価」への反映状況(観点・要素) 有効回答数=28(参考)
調査に対する「リクルートEd-tech総研」所長 森崎晃の見解
今回の調査を通し分かったことは大別すると3点あると考えています。それぞれ、(1)「非対面・非同期の学び」の実践にあたってICT教材の持つ特徴が活用されていること、(2)その活用範囲は生徒の学習デザインに留まらず教員の業務負荷軽減や「成績評価」への反映にも及んでいること、そして(3)成績評価への反映における観点や運用を含めてその知見は通信制高校以外の学校現場へも援用していくことができそうであること、の3点です。
(1)について我々があらためて捉え直し考えを深めて行きたいのは、だれのためのICT教材か、という永遠なる課題です。すなわち、ICT教材とひと口にいってもそのコンテンツや特徴は様々であって、学習者である児童生徒の状況にとってフィットする教材は異なる、ということです。本調査では、学力不振や不登校といった学校から遠ざかる経験を持つ、換言すれば学習空白期間を有する生徒が多く在籍する通信制高校においてはICT教材の効能が主として「繰り返して学習することができる」「学習内容がわかりやすく編集されている」「生徒の習熟度に合わせることができる」と捉えられ、実際に講義動画などの理解コンテンツを備えた教材が多く導入されている実態が明らかになりました。このレポートの読者のみなさまが関わる現場ではどうでしょうか。
(2)からも今後の指導・支援活動に活かしたいレッスンを得ることができると考えています。それは、教育や教育福祉の領域ではとかく、新たなツールや仕組みは学習者視点/学習シーン視点でその良し悪しを語ってしまいがちである、ということです。いえそれはまったく間違いではないのですが、学習者視点/学習シーン「だけ」で捉えていてはなかなか実効性が伴いません。学習者を支える支援者である教員にとってはどうなのか(願わくば業務負荷軽減にも寄与するように)、あるいは評価制度を運用する学校にとってはどうなのか、という視点でも検証を行っていくことが永続性を担保するうえでは欠かせません。
最後に(3)ですが、学びの機会を保証するうえでも、主に不登校支援の観点から、「オンラインを含む学校外での学習を成績評価へ反映する」ことはいずれ一般化する事項と考えています。しかしながら「学校外での学習を出席扱いとする」ことが浸透するまでに長い時間を要したことを踏まえれば、それも長い年月のすえの姿なのかもしれません。平等性の担保や学校現場での説明可否性といった、解決すべき諸問題があることを承知のうえで、Ed-tech総研は「オンラインを含む学校外での学習を成績評価へ反映する」ことを広く実現すべきだと考えています。今回のアンケート調査では実態や観点を明らかにすることはできましたが、その詳細な手法については個別に聞き取り調査等を重ねる必要があると認識しています。今後も継続し調査と発信に取り組んでまいります。