ニコン現役社員が高校生物を学び直し。企業が取り組むリカレントから見る、基礎学習と教養の重要性

担当者:内山 由香梨

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株式会社ニコン ヘルスケア事業部では、現在、スタディサプリ高校講座を活用し、社員による生物科目の学び直しに取り組んでいます。このリカレントの取組の背景にはどんな狙いがあるのか。また、なぜ数ある学習ツールのなかでスタディサプリを選んだのか。プロジェクトの発案者である事業部トップ、同じく推進者である事務局を務める管理課長、そして実際に講座を受講し学び直しを実践中である社員にお話を伺いました。

顧客との深いコミュニケーションに、専門以外の知識も活きる

 100年以上の歴史で培った光利用技術と精密技術を基に、カメラをはじめとする多彩な製品やサービス、ソリューションを提供する株式会社ニコン。時代の変化のなかで、映像や精機から成る主要事業のさらなる安定化を図るとともに、新たな価値を生む戦略事業の拡大にも力を入れている。

その戦略事業の一端を担うのが、バイオサイエンスや医療分野におけるさまざまな問題解決のためのソリューションを提供するヘルスケア事業部だ。近年の事業環境の変化について、執行役員・ヘルスケア事業部長を務める山口達也さんはこう語る。

「弊社には約100年の歴史をもつ顕微鏡の技術がありますが、今はただ単に顕微鏡という製品を売っていればいいという時代ではありません。ハードウエアやソフトウエアを組み合わせて多様なニーズに対応していく、より付加価値の高いソリューションの提供が求められています。ターゲットとなるお客様も、従来のような研究機関から、製薬企業やバイオベンチャーなど民間企業へと広がってきました」

Dsc_1328執行役員 ヘルスケア事業部長 山口達也さん

顧客志向でソリューションを提供するうえでは、顧客企業の事業領域である医療やバイオに関する基礎知識も必要だという。

「お客様が展開する事業領域でどんな課題や悩みを抱えているか、しっかりコミュニケーションしながら理解することが大切です。我々に生物学の基礎知識があれば、情報を受け止める感度が高くなり、課題に合わせたシステム設計が可能になるなど、より良いソリューションの提供につながると考えています」(山口事業部長)

しかし、機械や電気、情報などの工学系出身者を多く抱えるヘルスケア事業部では、社員間で、生物学に関する知識にばらつきがある。そこで、2023年夏、スタディサプリを活用して、遺伝子の配分や細胞の構造、免疫系や自律神経系といった人体の仕組みなど、生物学を体系的に学び直す機会を提供することになったのだという。

「基本的に学習は自ら行うものです。しかしながら、さまざまなバックグラウンドをもつ人たちの学習を促進するには、会社としての機会提供も非常に大切です」(山口事業部長)

リカレントの大切さを知る山口事業部長の思いを受け、学び直しの仕組みづくりに取り組んだ管理課長 吉田祥子さんは、そのツールとしてスタディサプリを選択した経緯をこう振り返る。

「調べたところ、学び直しに使用することのできるツールには、政府の研究者向け学習コンテンツなど、いくつか選択肢がありました。その中で重視したのは、受講者が学習に取り組みやすいこと、そして学習を継続しやすい仕組みがあることです。スタディサプリは小さなステップを積み重ねることで達成感を得やすく、進捗状況一覧など継続を支援する機能も整っています。

また、近年の生命科学の急速な進歩を反映して、現在の高校『生物』のカリキュラムには高度な知見が次々と加えられています。例えばDNAやタンパク質構造、ゲノム、免疫学など、バイオ医薬品の開発や遺伝子治療を理解するうえで基礎となる知識を学ぶことができ、学び直しに最適な内容です。先々、製薬企業の顧客とコミュニケーションができるようになるために、基本をしっかり備えておくべきと考え、スタディサプリ高校講座を活用する事にしました」

Dsc_1386rヘルスケア事業部マーケティング統括部企画部管理課長 吉田祥子さん

仕事の合間にスタディサプリをコツコツ受講

ヘルスケア事業部はスタディサプリのライセンスを30人分契約。管理職や開発・設計部門から希望者を募ってライセンスを配付した。受講者である社員たちは、それぞれのペースで学習を進めている。

「人によって業務の繁忙期などの状況が異なりますから、事務局から学習ペースの指示はしませんが、学習進度は定期的に通知しています。受講者全員が達成感をもって修了できるように働きかける事は、事務局の大事な役目の一つです」(吉田課長)

20231201スタディサプリの講義動画。各パートは講義、演習問題、確認テストで構成されている。

では、現場の社員たちはどんな思いで取り組んでいるのだろうか。現在、受講を進めている、設計業務担当の横山大知さんと小林圭輔さんに話を聞いた。2人とも、現在の業務に直接的に生物学の知識が必要なわけではないものの、周辺領域の理解に役立つこと、また将来的に担当業務の拡張や変化があった場合にも有効であろうと感じており、今回のチャンスで興味がわき、自ら手を挙げて参加したという。

「今年入社し、顕微鏡などの電機設計を担当しています。高校では生物基礎レベルまで学びましたが、既に知識が抜け落ち始めているので、これから生物学の知識が必要な場面があるかもしれないと、前向きな気持ちで受講を申し出ました」(横山さん)

Dsc_1479_r_2ヘルスケア事業部技術統括部設計部第二設計課 横山大知さん

「会話のなかに知らない用語が出てくると、頭に残らず流れていってしまいます。現在担当しているシステム開発などは生物学の知識がなくてもできますが、基礎的な知識があると業務の周辺への理解につながるので、学びたい気持ちがありました。自分では何から始めていいのかわからなかったので、このような機会はとてもありがたいです」(小林さん)

Dsc_1502_rヘルスケア事業部技術統括部設計部第四設計課 小林圭輔さん

スタディサプリの当該講座は、就業時間内の受講を可としている。1チャプターあたりの講義動画は5分前後と短いので、業務の空き時間を中心に取り組んでいるという。

2人は開始から約4カ月で高校の生物分野の5~6割を学び終えた。学習の成果が今後の業務に活きてくるという期待感もうかがえる。

「今後、お客様と話す機会ができたときも、生物学の知識が円滑なコミュニケーションにつながると思います。まずはひととおり学び終えることを目標にしていますが、終了後も反復し、知識の定着を図りたいですね」(横山さん)

また、学ぶ楽しさを実感する機会にもなっているようだ。

「専門分野以外で新しいことを学ぶのは久しぶりで面白いです。多様な分野で次々と出てくる新しい動きについても自主的に学び、業務にも還元していけたらと思っています」(小林さん)

複雑化・多様化する社会では、高校の幅広い学習が武器に 

受講者の2人に、学び直しをしている今の自分から、高校時代の自分に伝えたいことを聞いた。

「高校時代に勉強したことは、想像以上に、社会に出てから使うことがあります。当時は意義をあまり考えることなく勉強していましたが、結構役立つということを伝えたいです」(横山さん)

「高校生のときは数学が好きで、その方面の勉強ばかりしていました。今、生物の勉強を楽しんでいるように、ほかの分野にも興味をもって取り組んでいたら早くにその面白さに気づいたかもしれません。『数学以外もやってみたら?』と言いたいですね」(小林さん)

吉田課長は高校生の子をもつ母親としても、高校の学習の重要性を実感しているという。

「社会で役立つかどうかより、受験に必要だからという意識で勉強している子どもたちもいるでしょう。しかし実際は学校と社会は地続きですので、そのつながりを伝える社会人講演や校外活動を行う学校も増えていると聞きます。そうした取組を通じて、社会を意識しながら前向きに学ぶ子どもたちが増えていくといいなと思っています」(吉田課長)

山口事業部長は、これからの社会において学び続ける重要性を指摘する。

「学校で身につけた専門的な知識や技術も、市場の激しい変化に合わせたアップデートが欠かせない時代になりました。そのなかで弊社は、社員が市場変化をキャッチアップし会社のバリューを上げていくことができるよう、これからも学びの機会の充実に力を入れていきます」(山口事業部長)

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複雑化・多様化する社会では、常に最先端を取り入れながら、さまざまな知識を組み合わせて新しい価値を生み出していくことが求められている。そのなかで学び続けることの重要性が、同社の取組から伝わってくる。


取材協力:株式会社ニコン

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取材・文/藤崎雅子 撮影/丸山 光

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