「自分らしく、はたらく」を支える 〜不登校やうつ病などの多様な経験をもつ求職者の、幸せな転職を支えるための取り組み〜

担当者:森崎 晃田中 瑞希

 不登校での欠席やうつ病での休職、それぞれの事情で学校や仕事を離れた経験のある子どもや大人は少なくありません。こういった求職者の方への支援については、転職エージェントのあいだでも経験やノウハウが十分に蓄積されているわけではありません。実際に、就業して間もなく職場とのミスマッチに悩む方も少なくない現状があります。不登校やうつ病など多様な経験をもつ求職者の、幸せな転職を支えるために転職エージェントは何ができるのか――新たなチャレンジを始めた転職支援大手の「リクルートエージェント」のみなさんにお話を伺いました。

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1 若者の転職実態から浮かび上がる社会課題とは

――「リクルートエージェント」では2023年にミッションのリニューアルをされたときました。その背景や狙いについて教えてください。

柴田さん:リクルートエージェントでは、転職を検討中の方や現職でのミスマッチに悩んでいる方にご登録をいただくのですが、年間約143万3000人(※1)のご登録に対し、そこから実際に転職に至る方は約8万人(※2)。働き方に関する悩みも、その解決方法も多様化する中で、どのように変わればお力になれるかを再検討してきたことが今回のミッションのリニューアルの背景です。

窪山さん:働くことに対する悩みの解決は転職のみでは解決できないのですが、従来はどうしても転職ありきのサービス前提になってしまい、ハードルの高さや「今転職したいわけではないし・・・」というモヤモヤを抱かせてしまう課題はあると思います。

――転職の支援を行う中で、若年層のみなさんをとりまく課題として感じていること、またそれに対して支援者としてチャレンジしていることはありますか。

柴田さん:若年層、特に25歳以下の方の転職を検討している理由として、もちろん前向きな退職もあるのですが、職場とのミスマッチを理由としたケースが多い傾向にあります。

齋川さん:転職を考えるに至る理由のひとつに年収に関する不満は挙げられるのですが、理由はそれだけではなく、むしろ若年層の方は人間関係が大きな理由となって職場とのミスマッチを感じる方も多いと感じています。

窪山さん:転職活動の結果、当初の転職理由が「年収を上げたい」という方でも、内定を得ることができたときに「年収が上がるから入社します」と即決される方は、実は若年層では多くないと感じます。人生の多くの時間を費やす仕事というものを通して何を得たり成したりしたいのか、どんなことに挑戦していきたいのか、あるいはどんなことを大切に生きていきたいのか。そういう観点で最終的に選択する方が多い印象です。

齋川さん:求職者の方の中には、たとえば不登校経験があるとか、通信制高校の出身であるとか、あるいはうつ病での休職期間があるとか、そういった経験を経ていらっしゃる方もいらっしゃいます。
柴田さん:転職の支援は採用のマッチングまでで終わりではなくて、その選択が満足いくものであったか、入社への不安は解消されたかをふまえて支援していきたい。
ですので、多様なバックグラウンドをもつ求職者のみなさまの特性、その方に合った働き方や学び方への理解を深めながら、一人でも多くの方を支援していきたいと考えています。

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リクルートエージェントでマネジャーを務める柴田亜実さん。新卒で2008年に現職にジョイン。

2 一人ひとりの可能性に寄り添い選択を支える、というHRエージェントDiv.のミッションについて

――「リクルートエージェント」というサービスの特徴や強みについて、実際に利用者や採用企業から寄せられた声もまじえながら教えてください。


窪山さん:サービスとしての仕組みやビジネスモデルが他のサービスとは決定的に異なる、ということはないと思います。ですが、ご利用いただいてきた、いただいている求職者の人数も採用企業の社数も多いので、求職者の方にマッチングする確率の高い選択肢を提示しやすいというのはあると思います。

窪山さん:若年層の方や、なかでも企業で働いた経験がない方、あるいは休職期間がある方の場合、職歴や就業経験でご自身のアピールポイントを採用企業側に伝えるのが難しいと感じられている方も一定数いらっしゃいます。リクルートエージェントの場合は経験の棚卸しを得意とするキャリアアドバイザーがおり、学生時代の経験や得意、好きや苦手などもキャリアアドバイザーと一緒に深堀りして内省の機会をもっていただくことで、その方の強みを言語化していくことができる、という特徴があると感じています。

柴田さん:求職者の方の魅力を採用企業側にどう伝えるかという観点では、特にまだご経験が少ない場合には、その方のらしさや得意なことをキャリアアドバイザーと一緒に言語化しながら進めることが多いです。

――従来よりも多様なご経験をもつ求職者の支援に、力を入れていこうというミッションに対して社内の反応はどうでしたか。業界の常識からいえば利益の出にくいチャレンジかなと思うのですが・・・

窪山さん:これまではご期待に添えていなかった求職者の方の支援にもっと力を入れていく、ということは社内でポジティブに受け止められています。その背景に、2023年度から新たに策定されたミッションの存在があるかなと思います。「一人ひとりの可能性に寄り添い、選択を支える」というものなのですが、今回のように対象となる人数が少ない、あるいはこれまでご期待に沿えていなかった求職者の方への支援であってもどんどん取り組んでいくのだと、明確に方向性を定めています。

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リクルートエージェントでマネジャーを務める窪山智子さん。接着剤メーカー経営企画を経て、2017年に現職にジョイン。

3 転職市場は働き手の多様性を受け入れる時代に

――学齢期での学び方が多様化し、働き方も含めて社会との関わり方が多様化しているとよくいわれます。転職をサポートする中で感じる変化はありますか。

齋川さん:私はキャリアアドバイザーとして転職のサポートに携わって2年ほど経つのですが、この短い期間のあいだでも変化を感じています。それは新卒等で就職をしても職場とのミスマッチ、特に人間関係を理由に、退職や転職を早期に検討するケースが多い印象です。実際に、就職したその年度に転職活動を行う、たとえば4月に新卒入社したけれども夏には次の職場を探している、といった方の支援もいたしました。

――転職市場の変化は、求職者の側だけでなく、採用企業の側からも感じますか。

齋川さん:そうですね。さきほどのような、早期での転職活動となると以前は書類選考もなかなか通過しないというケースもあったのですが、採用企業側も多様な背景をもつ求職者への理解を深めていて、以前より書類選考や採用面接はもちろんのこと、実際に採用に至るケースも増えている印象です。

窪山さん:新しいミッションが策定されて、従来の求人ではマッチングしないかもしれないけれど、こういう方はどうですか、こういう強みを持っている方はどうですかと、求職者の方の実態にあわせて、採用企業とコミュニケーションをとりながら「新たなポジション」をつくる動きも進めています。

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リクルートエージェントでキャリアアドバイザーとして転職希望者の支援に携わる齋川大輝さん。地方銀行にて個人のお客様に金融商品の販売、店頭窓口業務を経て、2022年に現職にジョイン。

4 自分らしさを認めてもらえる環境で働くということ

――職場とのミスマッチを減らす、いわば「幸せな転職」を実現するために、支える立場として意識していることを教えてください。

齋川さん:まず私が感じているのは、その方の自分らしさを認めてもらえる、発揮できるような環境で働くことが大切だと実感しています。仕事を通して叶えたいことがこの会社では実現できそうなのか、もそうですし、同僚は多いほうが自分にとっては心地よいのかあるいは少ないほうが心地よいのか、上司からはしっかりとフィードバックがある会社なのかそうではないのか。そういった、実際に働くうえでの日常に関わってくる要素を意識しています。逆に、実際に求職者の方も年収ですとか勤務地ですとか、条件だけでは転職に踏み切らないことが多い印象です。

5 多様な経験をもつ求職者の方に転職支援者の立場から伝えたいこと

――最後に、不登校での欠席やうつ病での休職、それぞれの事情で学校や仕事を離れた経験のある方々に向けて、転職支援者の立場から伝えたいメッセージがあれば教えてください。

齋川さん:「自分には可能性がないのではないか」と考えてしまっている方こそ、一度は転職活動という経験をしてみていただきたいなと思っています。何も大層なことではなく、新しい仕事にチャレンジしたい、自分らしく働きたい、という素朴で漠然とした想いから職探しはスタートすることがほとんどです。だからこそ「でも自分なんて・・・」と思ってしまっている方こそ、気負わず、自信をもって一歩を踏み出していただきたいです。自分らしさや自分が何をしたいのか分からない方のほうが多いです。そこをキャリアアドバイザーと一緒に深堀していきましょう。

窪山さん:大前提として自分の幸せのために行動してほしいです。転職活動をすることと転職をすることはイコールではありません。最終的に転職せず、現職に留まっても構わないわけです。転職活動を通して、他の会社の方々と会って話をする中で視野が広がって、結果的に現職の環境への感謝を深めたり、あるいは今の環境であと一年はがんばろうとモチベーションが上がったりといった方も多いです。ですから転職支援サービスは、定期的に気軽に利用してみる、くらいでもいいんじゃないかなと思います。あと、働き手は全員が日本にとって重要な力なので、自分の想像以上に期待されているよ、悩みや迷いがあるならくすぶっている場合じゃないよと伝えたいです。

柴田さん:もし悩みや迷いがあるようであれば、最終的に転職するかどうかはさておき、まずは一度、話だけでも聞きに来ていただきたいなと思います。キャリアアドバイザーにはたくさんの知見が蓄積されていますし、どんな方でも受け止めますというスタンスで活動していますので。転職活動を通して、世の中からの期待や可能性を知ると、自信につながったり、現状の見え方が変わったりもすると思います。

――本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。不登校やうつ病などの経験のある求職者の目線に立って取り組むみなさんのチャレンジを、これからも見守らせてください。

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お三方自身もそれぞれに異なる経歴や視点をお持ちで、インタビュー中には多くの談義に花が咲いていました。


※1 2023年度実績:2023年4月1日~2024年3月31日の間に申し込みをいただいたサービス登録者数
※2 2023年度実績:2023年4月1日~2024年3月31日の間に転職を決定した人数

取材・文/森崎晃

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