『社会人における学び直しプログラム受講意欲の実態調査~受講経験と学習習慣に着目~』

担当者:永野 純矢

Photo リクルートEd-tech総研(所在地:東京都千代田区、所長:森崎 晃、以下「Ed-tech総研」)は、社会人における学び直し(以下「リカレント教育」)プログラム受講意欲の実態調査を実施しましたので、その結果を報告いたします。なお、Ed-tech総研では「学ぶ」と「働く」に関する各種調査を継続しており、本レポートはその第二弾として、リカレント教育プログラムの受講経験および学習習慣が受講意欲に与える影響に焦点を当てています。

調査結果(サマリ)

(1)受講経験がある社会人の約9割、受講経験はないが認知している層で約6割、さらにリカレント教育を知らない社会人では約3割が、今後の受講意欲を示しました。認知度が高いほど、受講意欲が顕著に向上する傾向が見受けられました。

(2)学習習慣を持つ社会人では約6割が、学習習慣を持たない社会人では約3割がリカレント教育の受講意欲を示し、学習習慣の有無によって約3割の差が認められました。これにより、学習習慣が受講意欲に直結していることが明らかになりました。

(3)学習習慣を持つ社会人の約2割が受講時の自己負担を容認しても受講を希望しているのに対し、学習習慣を持たない層ではその割合は5%以下に留まりました。日常的な学習への取り組みが、学習に関する自己投資意識の向上に繋がっていると考えられます。

(4)リカレント教育未経験者のうち、現在取り組んでいる学習内容と、業務に役立つと考えるプログラム内容が一致している割合は約6割であり、プログラムに対する需要が示唆されました。

調査概要

 近年、「リカレント教育」「リスキリング」「生涯学習」といったキーワードが注目される中、その背景には人生100年時代の到来や、変動性・不確実性が高いVUCA時代という社会環境の変化があると考えられます。これらの時代の要請は、従来の一斉教育や一過性の研修では対応しきれず、個々のキャリア形成や市場競争力を維持するためには、継続的な学び直しが必要不可欠であることを示唆しています。

 しかし、学校卒業後にプライベートの時間を使って自発的に学習に取り組む社会人は依然として少数派であり、現実には生活の忙しさや時間的・経済的な制約が障壁となっています。世の中の急激な変化に比べ、現代人の生活様式や学習環境の整備は必ずしも追い付いておらず、個人が柔軟に学び続けるための支援策が十分に整っていないのではないでしょうか。従って、受講しやすい制度整備を進めることはもちろん重要ですが、それと同時に社会人の受講意欲自体を向上させる取り組みがリカレント教育の普及には不可欠だと考えられます。学校卒業後、仕事や家庭を中心とした生活にシフトする中で、どのような要因が受講意欲の高低を分けるのでしょうか。

 こうした背景を踏まえ、Ed-tech総研は、リカレント教育プログラム受講経験と学習習慣が受講意欲に与える影響を検証する実態調査を実施しました。

・調査名称: 社会人における学び直しプログラム受講意欲の実態調査

・調査目的: 受講経験と学習習慣が受講意欲にどのような影響を与えているかを明らかにすること

・調査期間: 2024年12月

・調査方法: インターネット調査

・調査対象: 会社員

・集計対象: 400名

・補足  : 回答フォームにリカレント教育の意味合いを定義して回答を受け付けました。
“リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ、社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「社会人の学び直し」とも呼ばれます。”

回答者プロフィール

■年代と性別

 回答者の年代と性別については、大きな偏りが生じないよう事前に対象者の選別を実施しました。

1_nendai

 

■業種と職種

 回答者の業種と職種は下記の通りです(対象者の選別や調整は実施せず、自然回答を得ています)。

2_gyoushu

3_shokushu


 

■最終学歴と役職および年収

 回答者の最終学歴と役職および年収は下記の通りです(対象者の選別や調整は実施せず、自然回答を得ています)。

 

4_gakureki

5_yakushoku

6_nenshu

 

調査前提と経緯

 Ed-tech総研では、「先進事例を発信することで、『悩んでいるのは自分だけではなかった』『このように取り組めばうまく行くのだ』と感じ一歩を踏み出す教員と支援者を、増やしていく」をコンセプトに、教育および教育福祉の領域で、主に学習面での情報発信、調査・研究に取り組んでいます。

 第1弾レポートでは、学校での学びがビジネスキャリアに役立つか否かを検証し、教科や単元で習得した知識が社会に出た後にも有用であることを明らかにしました。しかし、現代は急速な技術革新やグローバル競争の激化により、高校で習得する基礎知識だけでは、実務現場で求められる高度な専門性や応用力を十分に補えないという現実があります。

 高校教育は論理的思考や基礎知識の習得において重要な役割を果たしますが、その後のキャリア形成では、現場での実践や自己学習を通じて最新の知識や技能を獲得することが一層求められています。こうした状況下で、働きながら継続的に学ぶリカレント教育は、個々の能力開発や企業の競争力向上に不可欠な役割を果たします。一方、正式なリカレント教育プログラムへの参加には時間的・経済的な制約などの障壁があり、すべての社会人がその枠組みで学んでいるわけではありません。

 本調査はこうした背景を踏まえ、日常的な学習習慣を持つ社会人が、必ずしもリカレント教育プログラムに参加していなくとも、業務に直結する知識や技能の学習に努めている現状と、学習習慣の有無が受講意欲に与える影響を把握することで、今後のリカレント教育普及の余地を明らかにすることを目的としています。

調査結果① リカレント教育の受講経験と学習習慣の有無、その内容

 「リカレント教育についてご存知でしたか。また、これまでにリカレント教育に関するプログラム(研修・講座など)に参加したことはありますか。」という問いへの回答結果は以下の通りで、リカレント教育への参加経験者は全体の4.3%に留まりました。

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 また、「現在、何らかの勉強に取り組んでいますか。継続的に取り組んでいる勉強の内容を教えてください。」という問いにおいて、「特に勉強はしていない」と回答した者を除くと、継続的に学習に取り組んでいる(学習習慣を持つ)割合は35.2%となりました。この数値は、リカレント教育プログラムの参加経験率(4.3%)を大きく上回り、正式なプログラム参加以外の形で、日々学習に取り組む層が存在することを示唆しています。

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 具体的な学習内容としては、「語学」、「資格取得」および「自身の業務に関する専門知識」が上位に挙げられ、これらが自己啓発やキャリアアップの主要なテーマとして重視されていることが窺えます。

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調査結果② リカレント教育受講経験や学習習慣の有無が受講意欲に与える影響

 日々の学習習慣やこれまでのリカレント教育受講経験が、今後の受講意欲にどのように結びついているのかを順に検証します。

 まず、リカレント教育受講経験が受講意欲にどのような影響を与えるかを検証します。

 リカレント教育受講経験に関しては、「リカレント教育についてご存知でしたか。また、これまでにリカレント教育に関するプログラム(研修・講座など)に参加したことはありますか。」という問いに対して、回答者に次の3点の選択肢を提示し、①を「リカレント教育参加経験あり」、②および③を「リカレント教育参加経験なし」として集計しました。
>①リカレント教育に関するプログラムに参加したことがある
>②リカレント教育のことは知っているが、プログラムに参加したことはない
>③リカレント教育のことを知らなかった


 受講意欲については、「今後、リカレント教育に関するプログラム(研修・講座など)を受けてみたいと思いますか。」という問いに対して、次の4点の選択肢を提示し、①および②を「リカレント教育プログラムを受講したいと思う」、③および④を「リカレント教育プログラムを受講したいとは思わない」として集計しました。
>①受けてみたいと思う(自身でお金を払ってもよい)
>②会社が参加費を負担するなら、受けてみたいと思う
>③自分で勉強するのでプログラムを受講しようとは思わない
>④リカレント教育を受けてみたいとは思わない(必要だと思わない)


 その結果、リカレント教育経験者の88.2%、リカレント教育を認知している未経験者の58.9%、リカレント教育を認知していない未経験者の28.7%がリカレント教育を受講したいと考えていることが分かりました。これによりリカレント教育への認知度が高いほど、受講意欲が顕著に向上する傾向が確認されました。

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 次に、学習習慣の有無が受講意欲にどのような影響を与えるかを検証します。

 回答者には、「現在、何らかの勉強に取り組んでいますか。継続的に取り組んでいる勉強の内容を教えてください。」という問いに対し、次の17点の選択肢を提示し、①~⑯を「継続して取り組んでいる勉強がある」、⑰を「継続して取り組んでいる勉強がない」として集計しました。
>①中学校の学びなおし ②高校の学びなおし ③自身の業務に関する専門知識
>④地域に関連したもの(農業・観光など) ⑤語学 ⑥IT・プログラミング ⑦マーケティング
>⑧経営 ⑨ファイナンス ⑩法律 ⑪医療・健康 ⑫教育・マネージメント ⑬芸術・デザイン
>⑭自己啓発 ⑮資格取得 ⑯その他 ⑰特に勉強はしていない

 その結果、学習習慣を持つ場合は61.7%、学習習慣を持たない場合は25.1%がリカレント教育プログラムを受講したいと考えていることが明らかになりました。加えて、「リカレント教育を受けてみたいとは思わない(必要だと思わない)」と回答した割合には40.7%の差が認められ、学習習慣の有無が受講意欲に大きな影響を与えていることが窺えます。さらに、「受けてみたいと思う(自身でお金を払ってもよい)」と自己負担を容認する回答割合は、学習習慣を持つ場合が21.3%、学習習慣を持たない場合は3.9%であり、学習に対する熱量の違いも示唆されています。

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調査結果③ 学習習慣を持つ社会人は業務に活かすために学習しているか

 学習習慣を持つ社会人は、業務に活かすために学習しているのか、それとも他の目的があるのかという疑問があります。そこで、リカレント教育未経験者のうち、学習習慣を持つと回答した者に絞り、各回答者が習慣的に取り組んでいる学習内容と、自身の業務に役立つと考えるプログラムの一致度を検証しました。(複数回答可能な項目であるため、1点でも一致すれば「部分一致」、すべて一致していれば「完全一致」として集計しています。)

 その結果、リカレント教育プログラム未経験者でありながら学習習慣を持つ回答者の57.9%が、正式なリカレント教育プログラム参加以外の方法で業務に活かすための学習を行っていることが確認され、プログラムに対する需要が示唆されました。

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調査に対する「リクルートEd-tech総研」研究員 永野純矢の見解

 本調査は、リカレント教育プログラムに対する社会人の受講意欲や学習習慣の実態を明らかにし、認知度の高さや日常的な自己学習の積極性が受講意欲に大きく寄与していることを示しました。特に、受講経験者の約9割が今後もプログラム受講を希望する一方で、正式なプログラム参加率は5%以下と低く、実際には自己学習で業務に直結する知識や技能の習得が行われている現状が浮かび上がりました。

 現代は長いキャリアを前提とした持続可能な学びの重要性が増しています。高校や大学で得た基礎知識だけでは対応が難しく、社会人が自らキャリアアップを図るには、変化に柔軟に対処するための継続的な学び直しが必要不可欠となっています。本調査の結果からも、学習習慣を持つ層が業務に役立つ知識の獲得を積極的に実施していることが明らかとなり、個々の意欲を引き出す支援策や、時間的・経済的なハードルを考慮した受講しやすい環境整備の必要性が改めて浮かび上がります。個々の学びを支える環境が整備されれば、長いキャリアを通じて自己研鑽を続け、延いては社会全体の持続的な成長に繋がると期待されます。

 本調査の知見が、今後のリカレント教育プログラムの改善・普及に寄与することを期待するとともに、「学び直し」がより多くの社会人に広がることを願っています。

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