2025年2月、リクルートEd-tech総研所長・森崎晃は東京都豊島区内の「小中連携教育推進協議会」にお招きいただき、教員のみなさまを対象とした研修を担当しました。本レポートでは「〝仕事力〟につながる学校での学び方とは」の題で実施した講演の内容や当日の様子を報告します。
▷講演の概要
・日 時: 2025年2月20日 午後
・場 所: 豊島区立さくら小学校にて
・参加者: 明豊中学校、椎名町小学校、千早小学校、さくら小学校にお勤めの教員のみなさま(約100名)
・テーマ: 〝仕事力〟につながる学校での学び方とは
東京都は豊島区、なかでも長崎・千早という閑静な住宅街と活気あふれる商店街とが融合した地域に所在する明豊中学校区。研究開発指定校として小中連携による「児童生徒が自ら実践力を向上し、成長につなげる学校づくり」を推し進める同校では、「『真の実践力』の育成」を学校経営・教育方針として掲げています。
明豊中学校・山本英行校長と、教育委員会の指導課がEd-tech総研に求めたのは、教員にとっての視点づくり――ビジネスと教育の双方に携わる立場から、子どもたちの将来(卒業後の社会人/ビジネス人生)と学校でのあり方(学び方や教え方)とを接続して考えるためのきっかけを提供してほしい、というものでした。
▷講演の内容
講演は大きくふたつのパートに分かれ、前半では「仕事力とは何なのか」、後半では「仕事力につながる学校での学び方や教え方」についてそれぞれ具体例や実践事例を引きながら展開しました。
(前半パート)〝仕事力〟ってなに
まずは「仕事力とは何か」です。
経済産業省の提唱する「社会人基礎力」の定義も引きながら、ビジネス界のリアルな潮流をビジネスパーソンたちの関心事と照らしあわせながら考えます。いま売れているビジネス書はどんなことをテーマとしているのか、再生回数の多いビジネス動画はどうか、広く支持されるビジネススキルに関する理論では必要な力をどう体系化しているのか――
しかし、見えてきたのは、変化が激しくかつ多様化している社会の中で、もはや「仕事力=◯◯である」と固定化して定義することは難しいのではないか、という実感です。むしろ、求められているのは取り組み姿勢やプロセスのほうであって、たとえば「変化に対応する力」「自らの頭で考える力」「協働しながら取り組む力」といった力なのではないか、ということです。そしてこの実感は、「社会人基礎力」とも矛盾しない、いえそれどころか合致した捉えに思えます。
ここで実際に、各企業が従業員に求めているスキルやスタンスを見てみることにします。理想をいえば採用面接の評価項目を覗き見たいところですが残念ながらそうはいきません、各社の定めるミッション・ビジョン・バリューのうちバリュー(企業・組織の構成員が具体的に「やるべきこと」)に着目してみます。
共通して伝わってくるメッセージは、生成AIや国内外の受託事業者と個人が台頭するいま、〝作業者〟にとどまっていては苦しい、やはり〝課題解決〟ができる人材こそが求められているという現実です。
(後半パート)学校での学び方
では学校では、あるいは教員は何を意識すればよいのか――仕事力や課題解決力につながる指導や支援として、どんなものがあるのか、が後半のテーマです。
文部科学省の中央教育審議会のとりまとめた「令和の日本型学校教育」をみても、あるいは東京都教育庁のとりまとめた「デジタルを活用したこれからの学び」をみても、目指したい姿として挙げられているのは「個別最適な学び」そして「協働的な学び」です。
しかし実際にどうすればよいのか――これまでEd-tech総研が見聞きしあるいは実践してきた先進的な事例をいくつか取り上げます。むろん授業現場はひとつひとつ異なり、そっくり同じものはふたつとありません。ですから、先行事例をそのまま移植できるとは限りません。それでも、各実践事例の中に参考材料や模倣対象が見つかるはずであると、紹介を進めます。
取り上げた事例はいずれも、Ed-tech総研が過去に記事として発信したものたちでした。
終わりに
最後に、この研修を通し得ていただきたい機会やきっかけが何であるかをあらためて整理し、また、講演の内容上「学び方」に焦点を当てたため「学ぶ内容(知識・技能)」について詳述はしなかったものの、ビジネスパーソンたちの実感として「知識・技能」が社会人/ビジネス生活に大いに役立っていることは調査結果からも分かっているというデータも紹介し、講演は終わりとなりました。
講演終了後、主催者/参加者からは、「これまでの小中連携研究協議会において、双方の教員が同時にキャリアについての講演を聴くことは、特に有用だった」「区内でこれまでに無い取り組みとなった」「明豊中学校区の各小学校で教育活動に取り入れてもらうことできる内容を聞くことができ、先進的な協議会となった」「学校教員は構造上どうしてもビジネス界の実勢に触れる機会が少ない現状がある中で、今回のような研修を通し〝仕事力〟と学校での学びとをつなげて考えるきっかけを得ることができた」といったコメントがあふれました。
Ed-tech総研では、今般のような貴重な機会を活かし、今後も「はたらく」と「まなぶ」に関する調査研究・実践を継続し積み重ねていく予定です。