ひとり親家庭の子どもへの新たなキャリア支援モデルはどのような効果を与えたのか

担当者:水谷 伊吹

株式会社リクルートが千葉県船橋市より事業委託を受けている、ひとり親家庭の高校生を対象としたキャリア支援事業「Bridge」が2年目を迎えました。2023年4月から2024年3月にかけて参加した生徒の変化についてご報告します。

取組概要

 「Bridge」では、自分の将来の夢ややりたいことを考えるきっかけをつくること、生活の向上および勉強意欲の向上を図ることを目的として、ひとり親家庭の高校生を対象としたキャリアと学習の支援を行っています。

キャリアセミナー

 子どもたちの今と将来に繋がるようなキャリアセミナーを設計しました。基本的に講師や大学生との交流、ワークショップ、議論など子ども自身が主体的に取り組むことができるような形式で実施しました。2023年度では、新たに東京大学へのオープンキャンパスや社会人との交流会も実施しました。

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【図1 キャリアセミナー年間スケジュール】

学習支援

 生徒の幅広いニーズに応えられるように、引き続き①学習支援教室型と②オンライン学習型から選択して参加できる体制としました。

 学習支援教室型では、スタディエリアとコミュニティエリアの2つを常設し、生徒の状況に合わせて使い分けができる設計としました。スタディサプリを活用しながら、学習計画を立てることをメインとして運営を行いました。

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【図2 学習支援教室のイメージ】

「Child Support System」というシステムの構築

 大人に悩みを打ち明けることに抵抗がある子どもも多くいるため、弊社独自に子どもたちの心の状態を数値化する「Child Support System」を構築しました。(大阪府箕面市の子ども見守りシステムを参考とした)「学力」「非認知能力(レジリエンス)」「健康」「基礎的信頼(ソーシャルキャピタル)」の4項目について、テストおよびアンケートで情報を収集し、独自の判定により子どもたちの心の状態を3段階の状態に分類します。特に対応が必要と判定された生徒については、自治体とともにケース会議を実施し、対応策やサポート体制の確認を行います。

Childsupportsystem【図3 ChildSupportSystemの概要】

 学習支援教室に通う生徒全員を一覧化し、教室の傾向を読み取ります。また、生徒ごとのデータでは全20項目について偏差値を算出します。特に低く出ている項目について、注意しコミュニケーションに活かします。

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【図4 ChildSupportSystem結果シート】

効果検証

キャリアセミナー検証方法

 キャリアセミナー参加者へアンケートを実施しました。回答数は延べ159名です。

キャリアセミナーを通して「将来」を具体化することで、「今」の行動に影響を与える

 アンケートの結果より、「自分の進路について考えてみようと思うようになった」と回答した割合が87%、「今から何かアクションを起こしてみようと思った」と回答した割合が92%でした。これにより、子どもたちの「今」の行動変容に作用したと読み取れます。また、「自分の卒業後の進路が具体的にイメージできるようになった」と回答した割合が87%であり、『将来』についてもイメージができたと読み取れます。将来が具体化されることで、今やるべきことが明確になり、どちらも高い数値となったと考察できます。

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【図5 キャリアセミナーについてのアンケート結果】

学習習慣の定着の確認方法

 キャリアセミナー参加者へアンケートを実施しました。有効対象者数は延べ26名です。

学習支援教室を通して学習習慣の定着を確認

 1週間の学習時間について63%が増加しました。(1時間以上の増加は47%)また、教室に参加する前と比べて日常的に学習をするようになった割合も70%と高い数値となりました。

 学習支援教室に通うことで学習習慣が定着したことが読み取れます。学習計画を立てることを軸として、生徒と学習サポーターが共通認識を持てる仕組みを作ったことで、継続的な学習ができるようになったと考察されます。

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【図6 学習支援教室におけるアンケート結果】

Child Support Systemによる声かけの確からしさ

 Child Support Systemにより最も注意が必要な「要対応者」に分類された子どもについては、ケース会議の内容をもとに声かけを行いました。その結果、様々な壮絶な体験が浮き彫りになり、とても学習や進路に向き合うことができないことが発覚しました。2023年度より新たに構築したシステムでしたが、分析結果と生徒の状況が大きく異なっていないことが確認できました。

 生徒によってはリクルート単体での対応が困難なケースもあったため、船橋市の各機関とともに支援を行う体制を築きました。

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【図7 連携体制構築図】

2年連続で本事業に参加をし、大学進学を果たした生徒の声

 「去年(2022年度)のキャリアイベントに参加し、『川下り型』という考えを知りました。(学校の)先生には将来やりたいことをよく聞かれていたが、『目の前のことを精一杯やった先にやりたいことが見つかることもある』と知ってスッキリしました。そこから教室で(学習サポーターに)相談をすることが増えて、教室に来ることが習慣になりました。勉強する気が無くてもちょっとでもさせてくれる環境に行くことで、勉強しなきゃという気持ちになる。この学習支援はきっかけを作ってくれる人が居るから、まずはその場に来ることが大切だと思います!」

 進学先決定後に、上記のように答えてくれました。高校生のキャリア教育は多岐にわたるため、何が生徒にとって良いのかわかりにくい部分があります。2023年度では、学習支援教室とキャリアセミナーにおいて、さまざまな観点での「きっかけ作り」を行いました。はじめは受け身でも、きっかけを得ることで生徒が主体的に物事を考えるようになっていく変化を目の当たりにしました。

  リクルートでは2024年度も引き続きより良い学び体験を生徒の皆さまに届けることが出来るよう継続して努め、取り組んでまいります。

 

 

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