LITALICO高等学院のみなさま。左から、市川さん、毛利さん、三村さん、緒方さん。
近年、通信制高校で学ぶ生徒が増加傾向にあります。その背景には、不登校経験や発達特性など様々な事情があり、時間や場所に縛られず自身のペースで学習を進めやすいという、通信制高校の特長が注目されているのです。
しかし、なかには本人にとって必要な学習指導や生活面のサポートが不十分であるケースや、あるいは自身で計画を立て管理しながら学習を進める過程で孤独を感じるケースも少なくありません。そこで重要な役割を担うのが「通信制高校サポート校」です。
LITALICO高等学院は、2025年4月に開校した通信制高校サポート校です。発達支援事業で豊富な実績を持つ株式会社LITALICOが、通信制高校サポート校の運営に乗り出したことは、教育業界からも大きな注目を集めています。
今回はLITALICO高等学院の立ち上げ・運営に携わるみなさんにお話を伺い、その様子をレポートとしてお届けします。
1 通信制高校に通う生徒を取り巻く現状と、LITALICO高等学院という新たな挑戦に踏み切った理由
毛利優介(もうり・ゆうすけ)さん。LITALICO高等学院で学院長を務める。入社以降、発達特性をもつ子どもたちの支援や子どもたちの好きや得意を伸ばす事業に携わり、今回、社会の仕組みを変えていくことにも挑戦すべく、通信制高校サポート校でのサービスを自ら立案・企画し実践中。
――通信制高校の存在感が増す中で、通信制高校サポート校についても耳にする機会が増えました。
毛利さん:まず通信制高校について説明させてください。不登校経験や発達特性も含め、様々な理由で「通いづらさ」や「学びづらさ」を抱えている子どもたちが、高校進学時の進路として通信制高校を選択するケースが増えています。通信制高校での学びは全日制高校などと異なり、レポートの提出(単元ごとに課される演習問題プリント)、スクーリングの実施(教科ごとに定められた、年間でおよそ数回以上の対面出席)、テスト(単位認定考査)で進められるため、こうした学び方のほうがフィットするという子どもたちに選ばれているのです。
――そこで、通信制高校に在籍する生徒が併行して通うことも多い、通信制高校サポート校というのは、どのような機関なのでしょうか。
毛利さん:通信制高校の生徒たちは、学び方は柔軟ですが、学習カリキュラムは全日制高校などと変わりません。自学自習形式だけではどうしても限界がありますから、学習面でも、あるいは学習以外の面でも、たとえば進路支援や生活のサポートも含めてですが、支える存在や仕組みが必要になってきます。通信制高校サポート校は、そうした生徒たちを支える、いわばダブルスクールとして存在しています。
――すでに多くの通信制高校サポート校が開校されている中で、LITALICO高等学院を新設する狙いはどのようなところにあったのでしょうか。
毛利さん:通信制高校を選ぶ生徒が増えていく一方で、卒業後の進路が決まらない、あるいは大学等に進学しても中退率が高い、という現状があることが課題だと感じていました。通いづらさ、これは学びづらさ、あるいは生きづらさと言い換えてもよいかもしれませんが、そういう苦しさを抱えた高校生たちに対して、一人ひとりに合わせた進路サポートができれば現状を変えていくことができるのではないか――そう考えたのが取り組みに至るきっかけです。LITALICOでは従来から、発達特性にあわせた支援、そして個性を伸ばしていく支援に取り組んできた実績とノウハウがあるので、それらを活かしてLITALICOこそが挑戦するべきなのではないかと考えたのです。
市川さん:さらにいえば、社内でも以前からずっと、既存事業である児童発達支援・放課後等デイサービスやプログラミング教室にくわえて、日中にもっと長い時間にわたって子どもたちと関わることのできる事業をつくりたいよね、という意見が多く出ていました。ですので、今回のこのLITALICO高等学院は、そうした思いをもつ社員たちにとっての悲願ともいえます。
毛利さん:そうですね。私もそうですが、多くの社員たちが、LITALICOの「障害のない社会をつくる」というビジョンに共感し、入社し、日々業務にあたっていると思います。
市川さん:LITALICO高等学院では、その人が持つ特性やスキルと、置かれた環境との組み合わせの中で、生きづらさが生まれるという視点を大切にしています。一人ひとりの特性や強みを丁寧に見つけ、それを活かした学び方や進路を一緒に考える。そして必要に応じて、生活面のサポートや保護者との連携も行いながら、環境側からも困難を取り除いていく。そんなスタンスで取り組んでいます。
たとえば足が不自由な方を前にしたとき、「その人が障害を持っている」と考えてしまいがちです。これは「医学モデル」と呼ばれる考え方で、障害を本人の内側の問題とするものです。でも実際には、段差があることで移動が難しいなど、環境の整備不足によって困難が生じているのかもしれません。これが「社会モデル」という考え方です。教育の現場では、まだまだ「本人が努力すること」「本人が変わること」にばかり目が向けられがちだと感じています。だからこそLITALICO高等学院では、個と環境の相互作用に目を向け、その中にある困難を丁寧にひもといていくことを大切にしています。
市川照剛(いちかわ・てるたけ)さん。LITALICO高等学院ではマーケティング全般を担う。障害を持つ兄弟の存在や家族としての実感もあり、大学生時よりアルバイトとして児童発達支援事業に携わる。
2 LITALICO高等学院が行う支援と取り組み――多様な生徒一人ひとりに寄り添う
緒方広海(おがた・ひろみ)さん。LITALICO高等学院ではチーフスーパーバイザーを務める。関東の自治体に心理職として勤務したのち、入社以降は複数の事業でスーパーバイザーを歴任、現職に至る。
――生徒のみなさんはどのような支援や指導を受けているのでしょうか。またどのようなサイクルでサポート校での生活は進んでいくのでしょうか。
緒方さん:生徒一人ひとりに合わせて、柔軟な支援が行われています。教科学習ではレポート作成のサポートを受けられるほか、プログラミングや探究講座など、教科学習以外にもさまざまな選択肢があります。中でも大切にしているのは、一人ひとりの「好き」や「興味」にじっくり向き合い、没頭する時間を通じて、その子ならではの個性や可能性を見つけていくこと。単に通信制高校の単位を取ることが目的ではなく、卒業後も自分らしく、人生を楽しんでいけるような土台づくりを、私たちスタッフは意識しています。
市川さん:サイクルという点でいえば、登校のスタイルもそれぞれ生徒一人ひとりにあわせて設計しています。
三村さん:週5日、朝から夕方まで通っている生徒も多くいますが、通い方は一人ひとりのペースにあわせて無理なく始められます。たとえば、週に1日だけの通学や、午前だけ・午後だけといった時間帯を絞った登校も可能です。また、対面での通学が難しい場合には、オンラインでの参加ももちろん大丈夫です。自分に合った通い方を見つけながら、少しずつ学校に慣れていけるような柔軟な体制を整えています。
緒方さん:良い意味で、同調圧力が弱い空間であるといえるかもしれません。自由なスタイルで参加でき、枠も適度に緩いと。それが通いやすい、そして楽しいという感情につながっているのだろうなという実感があります。
三村さん:そうですね。かたくなく、決められすぎていないのが良いのかなと感じています。生徒の中には、過去に在籍した学校の、様々な縛りやルールが苦しかった、それが生きづらさにつながっていたという経験をもつケースも少なくないので。
三村菜仁(みむら・なみ)さん。見学・入学希望の生徒や保護者とのコミュニケーションを担当。2025年4月から渋谷校にてLITALICO高等学院スタッフとして日々生徒、保護者への支援にあたる。
――LITALICO高等学院では、ICT教材も用いながら支援・指導を行っていると伺いました。その背景や狙いはどんなところにあるのでしょうか。
緒方さん:まずスタッフである我々にとって、支援にあたってICT教材や機器を使うというのは、他事業でも当然に使用して子どもの支援にあたってきた経緯もあり、自然なことでした。そのうえで、LITALICO高等学院に通う生徒には、たとえば教科学習の面でいえば『スタディサプリ高校講座』を利用できる環境を提供しています。大きな理由のひとつは、やはり学習に対して苦手意識や嫌悪感を持つ生徒も少なくない中で、教材自体に興味・関心を持ちやすいものを採用することで、取り組みやすさ、とっつきやすさをつくりたいというものですね。
市川さん:ICT教材は発達特性をもつ生徒にとっても有効だと考えています。なぜならば多様な表現・インプットの仕方を実現できるからです。たとえば文字を書くことが苦手な生徒であれば画面タッチや選択式で進めることができる、あるいは文字情報から理解することが苦手な生徒であればイメージや音声から理解することができるといった具合です。学ぶという行為の本質からみたときに、表現やインプットの仕方をみんなと揃えなければならないなんてことはない、学び方は自由でいいんだよなと、生徒たちの姿を見てあらためて実感しています。
3 生徒たちはこんなにも楽しく通ってきてくれるのか――良い意味で予想は裏切られた
――開校からまだ長い期間が経っているわけでありませんが、生徒のみなさんを支援する中で、あるいは保護者とのコミュニケーションを通して、すでに実感していらっしゃる生徒の変化はありますか
緒方さん:こんなにも「楽しく通ってきてくれるのか」、というのが率直な実感です。不登校経験も含め対人緊張を抱える生徒も少なくない中で、です。
三村さん:そうですね。私も同感で、予想を飛び越えて通ってきてくれているなと。それも強制されているわけでも、無理にがんばって来ているわけでもなく、楽しい、ここなら行きたいといって通ってきてくれているのがうれしいですね。
緒方さん:生徒同士の関係性が深まってきていて、そこにスタッフも入り、みんなで一緒に学校づくりをしている、という感覚です。
市川さん:最近では、生徒たち自身で、この場のグラウンドルールづくりをしようという動きも出てきています。生徒たちは苦しんだ経験があるぶん、他者に対して思いやりがあって受容的なので、自然とそういう動きにつながるのかもしれません。くわえて、入学前の段階から、保護者の方も交えながらスタッフと生徒とで関係性を構築することができている、というのも要因として大きいかもしれません。
三村さん:それはありますね。入学以前の、具体的には12月ころから保護者の方も交えながら生徒とのコミュニケーションは開始していて、丁寧に4〜5回は行っています。入学前にプレスクールという形で体験入学の機会も設けています。
市川さん:それも型にはめた一律なコミュニケーションや面談ではなく、一人ひとりにあわせた関りを大切にしてきました。たとえば、子どもとの接点はどう作っていくのがいいでしょうか、最初はあえて雑談だけのほうがいいですかね、興味をもってもらえるようであればサポート校でのプログラムについても紹介しましょうかね、と保護者の方と面談をしたうえで、お子さまへの関わり方を保護者の方と検討したこともよかったと思っています。
三村さん:そうですそうです。そのうえで、生徒本人が考え、決めることができるよう機会も渡しています。ですので、おそらく一般的な通信制高校サポート校とは順序が異なると思うのですが、LITALICO高等学院では「スタッフと生徒で話し合って決める」→「スタッフと保護者の方ですりあわせる」というケースが多いです。先に保護者と決めて、それを生徒に伝えるのではなくて。
市川さん:生徒自身で決める、自分で決めたのだと思えることが大切で、そうすれば生徒が自分を他人と比べなくいいのだと思うことができるようになりますからね。
三村さん:そういう小さな成功体験も積み重ねながら、入学前には家族以外との関わりがまったくなかった生徒が、いまでは自らの意思でLITALICO高等学院に通ってきていて、それも入学当初より通う日数・時間ともに増やすことができている、という明らかな変化も出てきています。
4 終わりに――事業にかける思いと今後の展望について
――最後に、この事業にかける思いや今後の展望について聞かせてください。
毛利さん:私は両親が学校教員であったこともあり、ずっと教育への思いをもって仕事に取り組んできました。生きづらさを抱える子どもたちが、自分の個性を見つけ、それを起点に進路のことであったり、生活のことであったりを考えていく。その機会やきっかけをつくり提供していくことが「その人らしく生きていく」を増やすことにつながるのだと思っています。
市川さん:私には障害を持つ兄弟がいることや、家族として感じた様々なこと、たとえばその兄弟が18歳になったとき施設に入所する以外の選択肢を取ることができなかったという経験を踏まえて、「誰でも多様な人生の選択肢を持てる社会であるべき」と漠然と考えていました。学生時代からアルバイトとしてLITALICOの事業に携わるなかで、出会った先輩方の情熱的な仕事ぶりに憧れて、そして自分自身もこの仕事が楽しくて、入社し現在に至ります。入社当初のビジョンに向かって、引き続き取り組みたいと考えています。
緒方さん:LITALICO高等学院のあり方は、そうはいってもまだ、一般的な通信制高校サポート校からみれば特殊なのだと思います。でも、こういうやり方でもいいのだということを、もっと広めていくことができたらと思っています。そして、スタッフ側にも力量が求められるのも事実で、それは剛柔のバランスといえばよいのか、ちゃんとレポート提出の支援も行わねばならない一方で一人ひとりにあわせた居場所としても機能させねばならないので、スタッフの育成にも力を入れていきたいと考えています。