「レジリエンス型キャリア支援プログラム」はキャリアと学習双方の観点でどのような効果を生んだか〜ひとり親家庭の高校生を対象とした新しい支援モデル〜

担当者:

0. 要旨

本レポートでは、「千葉県船橋市ひとり親家庭高校生キャリア支援事業」を通して得られたキャリアと学習双方の効果および、非認知能力の一種である「レジリエンス(※1)」の育みについての検証結果を報告します。単なる効果検証の報告に留まるのではなく、効果の創出につながった施策や特徴も取り上げることで、実践が効果へとつながっていった過程やあり方をも共有することを目指します。

※1:レジリエンス:ここでは「困難な状況に直面した際にうまく適応する力」として定義づけを行った。

1. 取組の概要

株式会社リクルートでは千葉県船橋市から事業委託を受け、ひとり親家庭の高校生を対象としたキャリア支援事業「Bridge」を実践中です(本レポートで取り上げる実践と結果は2022年7月から2023年3月に実施した事業を対象としています)。

船橋市のひとり親家庭高校生キャリア支援事業「Bridge」の概要

「Bridge」では、自分の将来の夢ややりたいことを考えるきっかけをつくること、生活の向上および勉強意欲の向上を図ることを目的として、ひとり親家庭の高校生を対象としたキャリアと学習の支援を行っています。実施にあたり、子どもたちの現状を丁寧に把握し、理想の支援をするために「ウェルビーイングの向上を目指したレジリエンス型のキャリア支援モデル」を構築しました。

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2. レジリエンスを育む各種施策

レジリエンスの育みをテーマに設計した学習とキャリアの支援のコンテンツについて紹介します。

キャリアセミナー

「どのように進路やキャリアを考えればいいか」「今の高校生にとって必要なものは何か」を事前に検討したうえでイベントを設計しました。子どもたちが主体的に関わることができるよう、基調講演、および大学生と一緒に学びを深めるグループワークの2つを基本の形として行いました。

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学習支援

生徒の幅広いニーズに応えられるように、①学習支援教室型②オンライン学習型から選択して参加できる体制としました。

学習支援教室型の特徴

  • 学習支援教室内で学習を行うスタディエリアとコミュニケーションをとるコミュニティエリアの2つを常設。
  • スタディエリアでは、子どもたちに寄り添い、褒め・励ましを中心に、信頼関係を構築しながら学習のペースをつくる。
  • コミュニティエリアには協力・協働、論理的思考力、自己表現などさまざまな力を養うことをテーマとしたボードゲームを設置しレジリエンスの育みやコミュニケーション能力の向上を狙う。

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オンライン学習型の特徴

  • 子どもたちの学習習慣の定着および学習方略を、「スタディサプリ」を通して行う。
  • 学年ごとのシラバスを基にしたおすすめ講義を、週に1度宿題配信することで学習のペースづくりを行う。
  • 随時、学習や相談対応を受け付け、必要に応じ教室参加を促す。

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3. 「Bridge」の取組の成果

本事業の目的である「自分の将来の夢ややりたいことを考えるきっかけとなるセミナーの実施」「セミナーや学習支援を通じた生活の向上および勉強意欲の向上」を測定するため、以下のように多面的な効果検証を実施しました。

検証概要

  • 検証方法:アンケート
  • 検証時期:2023年2月~3月
  • 対象者
    ・キャリアセミナー参加者へのアンケート:有効対象者数31名
    ・学習支援教室参加者へのアンケート:有効対象者数21名
    ・非認知能力についてのアンケート:有効対象者数36名

検証の結果、確認することのできた事項は以下の内容でした。

検証結果サマリ

  • キャリア支援により、生徒の進路実現可能性と学習意欲の向上が見られた。
  • 学習支援により、学習時間の増加とともに、学習へのモチベーション向上につながった。
  • レジリエンス(非認知能力)についても向上が見られ、特に、過去の成功事例の転用や、新たなやり方を検討しチャレンジする力の向上があった。

キャリア実現の可能性アップとともに、学習意欲の向上へ大きな影響あり

アンケートの結果より、「希望の進路実現の可能性が上がった」と回答した割合が94%となり、キャリアセミナーによって、自分の将来のイメージをよりもつことができたと言えます。また、「勉強に前向きに取り組んでみよう」と思った割合が100%となり、キャリアイメージの明確化が学習意欲にも高い影響があったと考察できます。

キャリアセミナーに参加したことで進路実現可能性と学習意欲はどのように変化したか

  • 「希望の進路実現の可能性が上がった」割合が94%(とてもそう思う+思うの合算)
  • 「勉強に前向きに取り組んでみようと思った」割合が100%(とてもそう思う+思うの合算)

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学習支援教室での学習により、家庭学習時間の増加と学習への高いモチベーションを実現

学習支援教室参加者に、1週間の学習時間の変化について確認したところ、50%以上の割合で30分以上の学習時間の増加がありました。また、学習に対するモチベーションも10段階で平均8段階以上となり、学習支援教室が、子どもたち自ら学習する気持ちを醸成することができたとともに、学習への行動変化にもつながったと考察できます。

学習支援教室に参加することで1週間の学習時間の変化や、学習へのモチベーションはどのように変化したか

  • 1週間の学習時間について、30分以上増えた割合が57%
  • 学習へ前向きに取り組むことができるようになったかについて平均8.24(10段階評価)

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学習支援教室を通して、レジリエンス(非認知能力)の育みを達成

学習支援教室では、単なる学習補充としての学習支援ではなく、現在から将来にかけてその子がより良い人生を送ることができるように、レジリエンスの育みを行いました。アンケート結果より、レジリエンスの育みに寄与できるモデルであったといえます。

学習支援教室に参加することでレジリエンス(非認知能力)はどのように変化したか

  • 「過去にうまくいったやり方を試みているか」についてあてはまる(あてはまる+ややあてはまる)と回答した割合が約20ptアップ。
  • 「あるやり方で問題を解決できなければほかのやり方を考え出せるか」についてあてはまる(あてはまる+ややあてはまる)と回答した割合が約30ptアップ。

「Bridge」に参加した子どもたち自身が、居場所としての機能や、対人コミュニケーション能力の向上、思考の深化を実感

アンケートの数値データからも各種効果を確認できたとともに、子どもたちからのフリーコメントを見ると、具体的なエピソード等をもって子どもたち自身が実感していることがうかがえます。

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「Bridge」に参加した生徒の声(一部抜粋)
  • わからない部分を丁寧に教えてもらえ、苦手な分野でも理解を深められた所が良かったです。また集中が切れたときや悩みがあるときには、息抜きとして気軽に話せたことが良かったです。
  • 自分のペースで勉強することができてボードゲームも楽しかった。
  • できるだけ早いうちに奨学金のこととか考えておくのが大事だと学びました。
  • お客さんが求めている需要とスタッフが提供している供給を成り立たせるためにいろいろな工夫をしていることがわかった。
  • 相手に相談事をするときや、意見を求めるときには相手に合わせて言葉や話し方を変えるべきだということを学んだ。

検証結果の考察

「Bridge」では、自分の将来の夢ややりたいことを考えるきっかけをつくること、生活の向上および勉強意欲の向上を図ることを目的とし、レジリエンスの育みにつながるキャリアと学習の支援モデルを提案して支援を行いました。

その結果、上述の通り、キャリア支援では、キャリアで重要な観点である、進路実現の可能性の向上や、キャリアを通しての学習意欲の向上を確認することができました。また、学習支援では、学習時間の増加や学習へのモチベーションの向上につながったことが確認でき、キャリアと学習の両方において、効果的な支援を行うことができたと考えられます。

また、非認知能力の一種である「レジリエンス」についても、過去の成功事例をほかの事例に転用する力や、解決できない事柄があるときに別の方法でチャレンジする力の向上が確認でき、単なるキャリアと学習での効果に留まらず、事前に想定したように、レジリエンスの育みにつながる支援ができたと言えるのではないでしょうか。

レジリエンスが、子どもたちの将来にとって大変重要な要素、力であることは多くの事例や研究で言及されているところであり、「Bridge」で実践したモデルは、キャリアと学習の効果はもちろん、レジリエンスの向上につながる効果的なモデルであると考察することができます。

4. 今後の展望

「Bridge」による良い効果とともに、支援の中でいくつかの課題も浮き彫りになりました。より効果を創出し、リクルートとして本質的な支援となるよう以下に今後の展望をまとめます。

  • 高校生の生活時間を把握、考慮し、少しでも参加しやすい日時、実施内容の検討と改善を行うことで、多くの高校生に対して効果を創出していく。
  • 本事業を通して、キャリアや学習の支援の手前にある、生活支援の重要性を改めて認識することを踏まえて、エビデンスに基づき、重点的な見守りを行う必要のある生徒の早期発見モデルの構築を行う。
  • 学習行動データとアンケートデータを基に、相関関係の検証や学習とキャリア、そしてレジリエンスのつながりを、数値データを基に検証を行うことで、レジリエンス型のキャリア支援モデルのさらなる磨き込みを行う。

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