未来の教育「学習者自らが学び続ける教育」を実現させる町 〜高知県梼原町(第一回)

担当者:安藤 崇敬

『未来の教育「学習者自らが学び続ける教育」を実現させる町 〜高知県梼原町』と題して、今回から3回にわたってお伝えします。

まず第一回の今回は「国が本気で進める教育改革と、梼原町の一貫教育との出会い」をお届けします。

国の教育改革元年は2016年

2016年、日本再興戦略2016で「第4次産業革命に向けた人材育成総合イニシアチブ」と題して、文部科学省から「初等中等教育段階における取組」が発表されました。その資料内には次世代の学校として2つの力を育む必要があると記されています。

  • 次代を拓くために必要な情報を活用して新たな価値を創造していく力
  • 次代を拓くために課題の発見・解決にICTを活用できる力

まさにこれまでの教育が重視してきた知識・技能の習得から、情報活用や価値創造そして課題発見・課題解決を重視するという変化を伴う、教育改革の方向性(未来の教育のあり方)が示されたものです。

その実現に向け推進するために、文部科学省だけでなく、経済産業省や総務省も連携し、教育改革のコンソーシアム(名称:未来の学びコンソーシアム)を立ち上げることも決まりました。今まで教育について3省庁が連携して取り組む組織を作ることが国家戦略(日本再興戦略2016)で示されたことはありませんでした。今回の教育改革を国が本気で進めることがわかります。

高知県梼原町 〜一貫教育を通じて教育改革を行うと決めた町〜

2017年2月に3省庁が連携して発足した未来の学びコンソーシアムでは、人生100年時代であり人口減少社会、またSociety5.0の時代を生き抜く子どもたちにとって、この2つの力を育む教育のあり方について、どのように教育改革を進めていくべきかを主観点として検討が進みました。

まさにこれと同じタイミングで、四国に位置するある町では、町の存続をかけて0歳から18歳までの一貫教育を通じて教育改革を行うと意思決定を下していました。それが高知県梼原町(ゆすはらちょう)です。

本レポートを公開した2022年現在でこそ、2020年から始まったGIGAスクール構想により一人一台端末の整備が進みましたが、2017年当時の時点では端末の配備状況は全国平均で5.6人に対し1台(国の目標でさえ3.0人に1台の設定)でした。
一方で、梼原町では2017年には一人一台の端末整備をほぼ達成していました。具体的には、教職員を含め小学5年生から中学3年生まで一人一台のタブレット端末(iPad)の整備を終え、さらには小学校、中学校、そして高校とICTを活用することで”学習者を中心にした教育”つまり個別最適化学習の実現のために小学校から高校までの生徒がオンライン学習サービス「スタディサプリ」を利用できるよう、ソフトウェア費用をも町が負担することを意思決定していました(小学5年生から中学3年生および高校1、2年生は全員)。

梼原町教育長の想い「一貫教育を通じて、子ども一人ひとりの特徴や強みを理解し、伸ばしたい」

梼原町は高知県と愛媛県との山間部に位置しています。日本三大カルストの一つ四国カルスト高原を擁し、薩長同盟の締結や大政奉還の推進などで維新の指導者として活躍した坂本龍馬が土佐藩から脱藩した最後の地としても知られる町です。

そんな梼原町は2020年時点で、総人口は3,307人と少なく、かつ2015年から5年間でも約10%の人口減少のある、加えて総人口の約45%を65歳以上(老年人口)が占め0歳から14歳までの子ども(年少人口)は約10%に過ぎないという、典型的な少子高齢化、過疎化の進む町です。

しかし梼原町は全国でいち早く少子高齢化が進む町であることを逆転の発想で捉え直し、自らの町を「課題先進自治体」と定義しました。観光や移住などのインバウンド施策に加え、教育の力で地域活性化を図ることを決め、2013年には「18年間で梼原人を育む」ことを目的として、教育委員会内に「一貫教育支援センター」を設置したのです。

梼原町の矢野教育長はその当時を振り返りこう述べています。

梼原町では、2010年までの30年間で子どもが約3割以上減り、総人口に子どもが占める割合も20%から10%未満になりました。

これからの時代、日本の地方ではさらに人口減少が進み、さまざまな人との直接的な関わりが減っていく一方で、社会は加速度的に変化して、ネットを介して世界中の人とは繋がりやすい社会となります。

このような社会では、一貫性のある教育を通じて、個々の子どもの特徴や強みを理解し、伸ばす必要性を強く感じます。

そこで(小学校、中学校、高等学校が町内に)各1校ずつの存続となったことを逆手にとり、0歳から18歳までの一貫教育を通じて学校段階を超えて子どもの育ちを線として捉え『タテ』の連携を強化していくべきだと考えました。

そして2018年には一貫教育支援センターが中心となり、学校段階を超えて子どもの育ちを線として捉えた『タテ』の連携を強化することを正式に決め、そのためのビジョンや仕組み、体制を整えることを株式会社リクルートの協力を得てスタートすることにしました。

梼原町が一貫教育で大切にすることは何か(ミッション)

梼原町の一貫教育で、関係者が最も大切にしているのが、学習者・子どもの観点です。そこで、梼原町で育む一人ひとりの子どもたちに「0歳から18歳までの教育を通じてどうなってもらいたいのか」を、子どもの観点に立った一貫教育の役割(ミッション)として定義しました。

それが梼原町の一貫教育のミッション「2040年の梼原町を担える自信あふれる梼原人の育成」です。
梼原人(ゆすはらびと)の定義は、梼原町の第6次梼原町総合振興計画でも記されており、以下の3つの素養を兼ね備えた人と定義されています。

 1. 正しいもの、美しいものをきちんと見極める
 2. 勇気をもって行動でき、人の痛みがわかる優しさをもっている
 3. 進取の気性に富み、未知の世界に臆することなく挑戦できる

そこから梼原町の一貫教育では、3つの素養を子どもの観点に立ち、18歳までの教育で育んでいく順番(優先順位)として並べ替えました。

 3. 進取の気性に富み、未知の世界に臆することなく挑戦できる
 1. 正しいもの、美しいものをきちんと見極める
 2. 勇気をもって行動でき、人の痛みがわかる優しさをもっている

まずは、自分に自信をもって挑戦できる人間になってほしい。
その次に、自分で切り拓いてきた人生で積んできた知識・経験から審美眼を養ってほしい。
最後に、自分の豊かな人生を支えてくれた人、まち、世界のために、利他的に生きてほしい、というものです。

0歳から18歳までの間で、何より自分自身に自信をもてる人間になってもらうことを大切にして育む。そして一貫教育の集大成として、2040年に梼原町で育んだ今の小学校、中学生および高校生が大人になった時に、どのような形でも梼原町に貢献できる人間になってもらいたい、という願いを込め梼原町の一貫教育のミッションが策定されました。

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