未来の教育「学習者自らが学び続ける教育」を実現させる町 〜高知県梼原町(第二回)

筆者:安藤 崇敬

『未来の教育「学習者自らが学び続ける教育」を実現させる町 〜高知県梼原町』と題して、3回にわたってお伝えします。
今回は第二回「梼原町の一貫教育による教育改革について」をお届けします。

梼原町ではこども園・小学校・中学校・高校を通した一貫教育について、関係者が目的を同じくして取り組むことができるように、また現場で判断に迷った際には立ち戻るべき拠りどころとできるように、ビジョン・ミッション・バリューを掲げることとしました。

梼原町が策定した一貫教育のビジョン・ミッション・バリュー

  • ビジョン(目指す世界観)
    学びが、誰にとっても、未来を切り拓く一歩踏み出すために
  • ミッション(果たすべき役割)
    2040年の梼原町を担える自信あふれる梼原人の育成
  • バリュー(大切にする価値観)
    大切にする力:「才能」、「アイデンティティ」、「学び」
    大切にするプロセス:「つなげて、つづけて、つよくする」

ビジョン・ミッション・バリューが必要な理由

2018年から梼原町では一貫教育を通じて行う教育改革つまり、「0才から18才までの一貫教育を通じて学校段階を超えて子どもの育ちを線として捉え『タテ』の連携を強化する仕組み・体制を整える」にあたって、

  • ビジョン(目指す世界観)
  • ミッション(果たすべき役割)
  • バリュー(大切にする価値観)

を定義しました。梼原町の教育に関わる人すべてが教育改革に関わっていくうえで、立ち戻れる考え、共通認識・理解できるものを明確にするためです。
そのために定義した2019年から、月次で開催する園長・教頭・校長会で繰り返し説明・確認を行い管理職の浸透をまず行いました。
そのうえで2020年からは年5回開催している町内のすべての学校・園の教員が参加する保幼小中高一貫教育推進協議会において、大切にする3つの力に合わせてこれまでの3つの部会を

  • 個性の伸長(=才能)部会
  • キャリア教育(=アイデンティティ)部会
  • 学力向上(=学び)部会

に変更し、それぞれの部会の責任者には管理職が担ってもらい共通認識・理解そして行動ができるようにしました。
実は日本全国を見渡しても、一貫教育のビジョン・ミッション・バリューを定義している自治体は多くありません。それは、一貫教育がこども園(幼稚園や保育園年代)と小学校、または小学校と中学校、または中学校と高校の連携と、2つの組織を繋ぐことにとどまり、組織間の連携を行うことが目的化していることが多いためです。
一方で、梼原町では一貫教育支援センターが校種間の連携のあるべき姿を描き、学校現場を支援する役割を担っているので、一貫性のある教育を通して個々の子どもの特徴や強みを理解し、伸ばすことを目的にビジョン・ミッション・バリューを定義して取り組むことができています。

ビジョンに込めた思い

梼原町では、一貫教育としてのミッション(果たすべき役割)は第一回でお伝えしたように、「2040年の梼原町を担える自信あふれる梼原人の育成」と定義しています。

このミッションを通じて梼原町の一貫教育の目指す世界観をわかりやすい言葉で表したのが、ビジョンである「学びが、誰にとっても、未来を切り拓く一歩踏み出すために」なのです。

子どもたちが生きいていくこれからの社会、人口減少社会、Society5.0の社会において、教育は確実に変わらなければなりません。書籍『学習指導要領の読み方・活かし方-学習指導要領を「使いこなす」ための8章』の著者であり2020年から小学校、2021年から中学校、2022年から高校で導入された新しい学習指導要領の改定に初等中等教育局教育課程課長として責任者として関わった文化庁次長 合田哲雄氏は、新しい学習指導要領のポイントとして、アラン・ケイの言葉『未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことである』を引用して「今の子どもたちには、今必要な知識を習得することにとどまらず、次の時代を創っていく力が必要である」と述べています。
これまでの教育は、正解が求められる未来を生きるための情報処理力を身につけることを主眼に置いたものでした。しかしこれからの教育は「自ら創る未来」を生きるための情報編集力を身につけることが大切になるのではないか、ということです。
梼原町の一貫教育のビジョンには目指す世界観だけでなく、梼原町の教育を通じて、子ども自身が「教育が自らの未来を切り拓く一歩踏み出す力になる」と意識できることの願いもまた込められているのです。

バリューに込めた思い

一貫教育で大切にする3つの力を「才能」「アイデンティティ」「学び」と定義しました。
また、大切にするプロセス(合言葉)は、これらの3つの力を、組織ごとにこども園、小学校、中学校、高校の各組織だけで取り組むのではなく、「0才から18才までの一貫教育を通じて学校段階を超えて子どもの育ちを線として捉え『タテ』の連携を強化する仕組み・体制を整える」ためのプロセスがわかりやすい合言葉となるように「つなげて、つづけて、つよくする」と掲げました。

なぜ3つの力を大切にしようとしたのか

今までの教育では、速やかに正しく処理する力、つまり情報処理力が重視されてきました。これからの教育では、身につけてきた知識や技能を組み合わせて自分が描きたい未来を実現する力、つまり情報編集力が重要になります。この情報編集力を身につけるための3要素が「才能」「アイデンティティ」「学び」だと考えています。

  • 才能
    自分が描きたい未来を定義し諦めずにやり抜くためには、一貫教育を通じて才能である強みや特徴に気づかせ、高めていくことが必要です。

  • アイデンティティ
    自分で進む道を選び、未来を切り開いていくためには、自分の価値観や判断軸を知り磨いていくことが必要です。一貫教育を通じて、アイデンティティを知り磨いていく機会を大切にします。

  • 学び
    自分が描きたい未来、創りたい未来を定義し、未来に続く道を選択するためには、才能やアイデンティティが必要です。つまりその未来を実現するための知識や技能を得て、そして組み合わせることがこれからの学びと言えるでしょう。一貫教育では、無目的になりがちで与えられるだけであったこれまでの教育を、未来を切り拓くことを目的にした個別最適化された主体的・対話的で深いこれからの教育へ変えていくことを大切にしています。

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これら3つの力「才能」「アイデンティティ」「学び」を育み続けることができれば、学習者が夢をもつことができたり、また自らへの(才能への)自信を高めることができると考えています。
夢や自信があれば、自分の未来を切り拓くために一歩踏み出すことができるでしょう。
一歩踏み出した先に失敗や挫折があったとしても、夢や自信によって失敗を教訓に変え、再び立ち上がることができるはずです。
そして、夢に向かって自分への自信によってまた学び、一歩踏み出す。このように学習者が中心として学び続ける循環が生み出されると考えています。

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なぜ3つのプロセスを大切にしようとしたのか

各組織ごとに3つの力「才能」「アイデンティティ」「学び」を大切に育んでいきたいという思いはあっても、こども園から小学校、小学校から中学校、中学校から高校と組織をまたぐ場面では、なかなか取組や情報が連携できないことがあります。またそのような場合では学習者の観点ではなく、組織の観点が優先されてしまいがちです。
梼原町の教育では大切にする3つの力「才能」「アイデンティティ」「学び」を定義したうえで、組織を超えて「つなげて、つづけて、つよくする」を合言葉にしています。そしてそのプロセスを大切にすることで、学習者を中心にした学びの実現を目指しています。

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具体的には各組織および組織間で3つの力のうちどれを重視して、そしてどのようなことに取り組み「つなげて、つづけて、つよくする」のかを明確にしています。

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さらにこのような取組が形骸化せず教職員一人ひとりに浸透させるために、町内のすべての園・学校の教員が参加する「保幼小中高一貫教育推進協議会」を年5回開催し、この3つの力の観点ごとの部会に分かれて話し合う場を設け、一貫教育の向上に努めています。

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