学習履歴データから読み解く不登校児童生徒の自立性獲得

担当者:森崎 晃

不登校児童生徒を支援するツールのひとつとしてタブレット学習を導入

リクルート次世代教育研究院は国内の教育委員会と協働し、とある市内の適応指導教室において、スタディサプリ小学講座・中学講座を活用した学習支援を実施しています。

ICT教材・タブレット教材を用いた不登校支援はこれまでにも例がありますが、目的を、学力補充ではなく、学習上のつまずきを知ることや精神的な負荷を和らげること(不登校児童生徒が普段なかなか学校での授業を受ける機会がないことに起因します)に置いた、より児童生徒の目線に立った学習支援としているのは、これまでにあまり例のない取り組みです。

したがって、利用はあくまで児童生徒のうち希望者とし、利用方法や取組教科・単元についても自主性を尊重しながら、児童生徒とスタッフとで話し合いながら決めていくこととしています。

学習行動の変化から不登校児童生徒の心理的変化を読み解くための仮説

ICT教材・タブレット教材の利用を通して蓄積される学習履歴データから、不登校児童生徒の心理的な変化を読み解くことができないか。この問いを解くために、リクルート次世代教育研究院では以下の仮説を立てました。

(仮説)不登校の子どもたちは回復途上において以下の3段階をたどる

phase1 現在の自分と向き合っている

学習行動の特徴
  • 不登校になった時点の自分と向き合うのは辛く、さかのぼって学習することは難しい
学習履歴データ上の特徴
  • 【a】自学年の単元に取り組んでいる
  • 【b】過学年の単元に取り組んでいても、継続して取り組むことは難しく、単元間を点々と移動している

phase2 過去の自分と向き合っている

学習行動の特徴
  • 不登校になった時点ないし学習空白期間の最初までさかのぼって学習を開始し、継続して取り組んでいる
学習履歴データ上の特徴
  • 【c】不登校になった時点から学習を開始している
  • 【d】単元順に継続して学習に取り組んでいる

phase3 未来の自分と向き合っている

学習行動の特徴
  • 目的意識をもって主体的にさかのぼって学習している
  • 単元順に継続して学習に取り組むとともに、自ら取捨選択して必要箇所を学習している
学習履歴データ上の特徴
  • 【e】単元順に継続して学習に取り組んでいる+前後2単元程度の範囲内での周遊がみられる
  • 【f】授業動画の倍速再生、早送り頻度が高くなる

今回の検証対象項目と検証方法

本レポートで上記【a】〜【f】のうちどれを検証対象項目とするかについては、以下の通りとしました。

検証対象項目

  • 【a】【c】→除外(定性調査やヒアリングを要するため今後の検証機会に譲る)
  • 【b】【d】【e】【f】→今回検証を行う

検証方法については、以下手法をとることとしました。

検証方法

  • 適応指導教室において、2017年度に実際にスタディサプリを使用した児童生徒の学習履歴を解析する
  • 【b】【d】【e】→自立性の獲得が大きく見られた生徒2名(学校復帰だけが支援の目的ではないが、ここでは学校復帰にいたった生徒2名を検証対象として採用した)と、比較対象用サンプル生徒3名とを、以下の項目について比較する
    単元間を移動する際に、「3単元以上前or3単元以上先へ移っている割合」「1-2単元前or1-2単元先へ移っている割合」を計測する
  • 【f】→大きく自立性を獲得した生徒2名と、生徒全体とを、以下の項目について比較する
    授業動画を視聴する際に、「倍速再生を使用した割合」「一部を飛ばしながら視聴した割合」を計測する

※なお、検証科目は数学・算数(積み上げ式の科目であり連続性を計測しやすい)とした
※比較対象用サンプル生徒には学習量が一定以上あり、比較対象として適切な生徒を抽出した

検証結果および考察

検証結果は以下表の通りでした。

【b】【d】【e】単元間を移動する際に、

2018827_image1

【f】授業動画を視聴する際に、

2018827_image2

今回の検証結果を受け、リクルート次世代教育研究院としては、いかんせんサンプル数がまだまだ少なく継続的な研究が必要であることは確かながらも、以下のように考えています。

考察

  • 仮説は確からしいと分かった(ただし、サンプル数はまだ少なく、継続して検証する必要あり)
  • 大きく自立性を獲得した生徒は、1-2単元前or1-2単元先へ移っている割合が高く、倍速再生を使用した割合も高かった
  • ただし一方で、一部を飛ばしながら視聴した割合については有意な差がみられなかった
  • 同時に、逆説的にいえば、学習履歴が以下に該当する生徒は回復が進んでいるのであって、これをオンラインでのアセスメントに援用する可能性を秘めているといえる

※この記事は、2018年8月にスタディサプリ教育AI研究所に掲出したレポートを転載しております。

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