【吉岡町立明治小学校】「当たり前」をゼロリセットして挑む、子どもが自ら学びを深める授業づくり

授業実践(小学校)

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学校を挙げて授業でのICT利活用に積極的に取り組んできた吉岡町立明治小学校(群馬県)。ICTの強みを活かしながら、児童が自己存在感を高め、自ら学びを深めていく授業づくりに取り組む、粕川慶大先生の理科の授業をレポートします。

教員の指示出しがなくても児童が考えて動き、探究を深めていく

6年生理科の教科担任、粕川慶大先生の「てこのはたらき」の授業を見学した。

教室前方のホワイトボードには、本日取り組む学習問題「てこのはたらきを利用した道具はどのように分類できるのだろうか」が書かれている。班ごとに挨拶をして、授業が始まっても、粕川先生は全員の前で指示を出すことはしない。各班では児童が「本時のめあて」を話し合い、代表者がタブレットからGoogleスライドに入力。そして一人ずつ、問題に対する「予想」を考えて入力していく。1_2「本時のめあて」と「予想」が立て終わった班から、次々と動き始める。タブレットに向かいインターネットで情報収集する班、子どもたちが持ち寄った道具を実際に使ってみながら意見交換する班、図書室に調べに行くと言って教室を出ていく班…それぞれが考えた方法で課題解決を進める。その間、粕川先生は各班を回り、「いいね」「次はどうするの?」などと言葉をかける。2_2活動は班ごとだが、授業はチャットで児童同士がコミュニケーションを取りながら進み、クラスのチャット上では班を超えたやりとりもある。教室の外で学習をする班が見つけたてこの道具を共有したり、水道の蛇口の写真を撮って「これはてこなのか?」とほかの班に質問を投げたりする。

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活動の終了時間になると全体進行の児童が呼び鈴を「チン」と鳴らし、メタ認知(振り返り)の時間になった。「実験で調べた結果〇種類あった」「予想と違っていたので、次回は学び方を変えて調べたい」など、一人ひとりがGoogleスライドに振り返りを入れていく。次回の授業も、引き続き同じ学習問題について探究を行い、考察し、結論をまとめる予定だ。粕川先生は各班を回って児童と言葉を交わし、理解の状況や学び方を確認。教員側で学習内容をまとめることはせず、その日の授業は終了した。4_img_2157t_r

児童の自己決定を促し、班活動で自己存在感を高める

授業後、粕川先生に授業のねらいや工夫について話を伺った。

この日の授業は、単元の最後2時間に設定している発展学習の時間だった。学習問題に掲げた「てこのはたらきを利用した道具はどのように分類できるのだろうか」は、児童からの問いが基になっているという。

「前時の授業で調べてみて、てこを使ったいろんな種類の道具があることがわかり、『どんな種類があるんだろう』『もっと調べたい』といった声が挙がったんです。それで、みんなで探究しようということになりました」(粕川先生、以下同)

粕川先生の理科の授業では、新しい単元に入るとき、児童がその単元テーマで探究してみたいことを決める。そのうち、教科書の内容にマッチしているものは教科書に沿った学習に吸収し、教科書でカバーできないものを最後の発展学習の時間に取り上げることもある。

授業は基本的に、1つの学習問題を2時間1セットで展開する。インターネットや書籍で調べるだけでなく体験や実験、観察など手段を児童自ら選択し、失敗や迷走をしながらも結論にたどりつけるように、十分な時間を確保しているのだ。

「問いを探究していくための手段(学び方)や実験の方法は、こちらから指定せず、子どもたちが考えて決めています。1時間目に選んだ手段や実験の方法ではうまくいかないこともあるので、2時間目にもう一度手段を選び直して調べられるようにしています。授業の中でそんなトライ&エラーをたくさん繰り返してほしいと考えています」

Teen_for_311粕川慶大先生(教務主任/教員歴14年目)

粕川先生が授業の中で児童の自己決定の機会を数多く設定している背景には、「何を学ぶか以上に、どう学ぶかを教えたい」という思いがあるという。

「コロナ禍で学校が休校になったとき、こちらから課題を出さないと、子どもたちは何をしたらいいかわからないのだということを痛感しました。学び方をしっかり身につけて、目的に向かって自分で見通しを立てて必要な学びを組み立てられるようになってほしいと考えています」

授業では3~4人の班で学習を進めていく。数カ月ごとに行う班の組み替えでは、最初にGoogleフォームのアンケートを使って班長を募集。希望者全員を班長または副班長に任命し、ほかの班員を構成していく。

「班長の募集では、これまでなかなか前に出られなかった子も挑戦してみるチャンスだよ、と伝えています。半年余りで班長・副班長経験者はクラスの約3分の2に達しました」

粕川先生が助言したいことがあるときは、班長を集めて伝え、班長から班内に展開してもらう。また、自分の意見を出しにくい児童へのフォローも、班長・副班長が率先して行う。見学した授業では、一人ひとりがスライドに「予想」を入力したときにも、「わからない」という言葉を使った児童に、別の児童が「観察や実験をして調べてみよう」とコメントを入れるなど、児童同士で励まし合っていた。

「子ども同士でフォローし合うことで、『自分も意見を出していいんだ』『自分も班の中で活かされている』という自己存在感につなげることを意識しています」

6_img_2146_r_2ある班の予想入力スライド。画面左の表に一人ひとりが入れた予想に対し、右側にコメントが付いている。

実際に計って気づいた、授業中の教員のトーク時間の長さ

このように生徒が主体となる授業を実践している粕川先生だが、「2年前までは自分のトーク力でどうにかしようという意識が強かった」と振り返る。何度か自分の授業を見つめ直すきっかけがあり、少しずつ授業を変えてきたという。

最初のきっかけは、先輩の教員に「授業中に自分がしゃべっている時間を計ってみたら」と言われて計測してみたことだ。計測した社会の授業では、自身の予測を大きく上回り、45分中35分も自分自身が話をしていた。

「児童がグループで話し合う時間も取っていたにもかかわらず、これほど自分がしゃべり通していたとは。予想以上に長い事実に気づかされました」

実際に教師主導の授業スタイルを変える一歩を踏み出すこととなったのは、2022年度、群馬県総合教育センターの特別研修に1年間参加したことがきっかけだ。令和の日本型学校教育について学び、授業を見つめ直し、「予想を立てる部分は子どもたちに預けてみよう」「うまくいったから次は振り返りの部分も子どもたちに預けよう」という具合に、少しずつ児童主体の活動を増やしていった。そのなかで最も手放すことが難しかったのが、授業最後のまとめ(結論)の部分だという。

「子どもたちがきちんと理解しているか心配で、授業の最後は私が教科書に沿うように誘導してまとめていました。自分たちで学びを積み上げていったのに、最後だけ先生が登場しておいしいところをもっていったように思います」

そこで改めて活用したのが教科書だった。班で探究してきたことについて考察したあと、児童一人ひとりが教科書を開き、自分たちの考察がどれだけ結論にせまれたのかを確認する。

「教科書を開いた瞬間、子どもたちからは『あー!』『ここ違ったか~』などの声が上がります。子どもたちには教科書を読み取る力がつきますし、教科書の価値が非常に高まったと感じています」

少しずつだが着実に児童が自ら学ぶ授業へと変化させてこられたのは、粕川先生がそれまでもっていた「当たり前」を疑い、手放してみる勇気をもったからのようだ。

「かつての私は自分の中に『授業は教員がトークとチョークで知識を伝達するもの』と凝り固まっているものがあり、柔軟性がなかったように思います。そこから、今まで『当たり前』と思っていたあらゆることをいったんゼロにしてみようと、授業改善に取り組んできました。それでも抜けきれず、いまだに自分の考えが偏っていると思う場面があります。ときどき立ち止まって、ゼロベースで授業を振り返る習慣をつけるようにしています」

こうした授業スタイルの変遷を経て、粕川先生には今、児童の自ら学ぶ意欲が高まっている手応えがある。それがよくわかったのが、今年度の夏休み、自由研究に取り組む6年生の児童数が急増したことだという。任意の課題のため昨年は5人程度だったが、今年は全体の3分の1にせまる30人以上が取り組んだ。

「子どもたちはもっと自ら学びたい、もっと探究したい、自分が調べたことをアウトプットしたいという気持ちをもっていることを、改めて感じました。日常的にも子どもたちが自主的に学んでいて、そのなかには良い取組がたくさんあります。ほかの子どもたちに共有するなど、それぞれの学びをもっと尊重する仕組みができないだろうかと常に考えています」

Photo_3_2授業内容の発展テーマや、興味・関心をもった新たなテーマなど、さまざまなテーマで取り組んだ自由研究のレポート。

「考えて行動できる人」の育成のため、ICTを活かして子どもを主語に

児童を主体とする授業の実践において、ICTが果たす役割は大きいと粕川先生は言う。

 「デジタルツールの即時共有や共同編集の機能を活かすことで、非常にスムーズに子どもたちを中心に授業を進めることができています。また、スタディサプリなどの導入によって家庭での先どり学習が進み、多くの子どもたちがある程度その日の内容を理解した状況で授業に入れるようになりました。最初は自主学習をしてこない子どももいましたが、事前に学習してきた子どもたちが活躍し、情報を共有してくれることで、班の中で学び合う動きにつながっています。こちらが枠組みを作らなくても、子どもたちが『もっと知りたい』『もっと深めたい』という気持ちを高め合い、学びを深めていくことができます」

同校のある吉岡町では、一人一端末整備活用事業に伴う取組を「HiBALIプラン」と銘打ち、令和2年度から力を入れてきた。初年度のHiBALIプランの「ver.1.0」では、機器の整備とその活用の開始が焦点だった。令和3年度の「ver.2.0」は各校が研修して授業に取り入れる段階とし、令和4年度の「ver.2.1」では新規アプリケーションや学習eポータルを導入してさらなる有効活用を模索した。

そして令和5年度の「ver.3.0」では、ICTにとらわれず、「子供を主語にした学校づくり」をテーマに、学校・教育委員会・保護者・地域・関係企業などのさまざまな連携の下、「持続可能な社会の創り手となる『考えて行動できる人』の育成」を目指している。

Hibali30_01_2 吉岡町学校教育推進計画「HiBALIプラン3.0」https://www.net.yoshioka.ed.jp/file/5790

明治小学校はHiBALIプラン実施の初期より、「失敗してもいいからやってみよう」とできる教員から挑戦していくことでICT利活用を推進してきた。現校長を務める須藤昭利先生も、引き続き積極的にICT利活用をしていく方針を掲げ先生たちを牽引する。今では、児童はタブレットの使用に慣れ、教員にもデジタル教科書やデジタルドリル、デジタルホワイトボードなど多様なツールの活用が広く浸透し、使うことが当たり前になっている。

T校長 須藤昭利先生

このように整ってきた環境を活かしながら、吉岡町が掲げる「考えて行動できる人」の育成に向け、いかに「子供が主語」となる授業を学校全体に広げていくかが、次の課題だ。 

「ICTを取り入れれば必ず子どもを主語にできるというわけではない。新しい令和型の教育観に基づいて、必要なところにICTを利活用していくという流れにつなげていきたい」と、粕川先生は教務主任として校内の機運を高めていく考えだ。

須藤校長も、児童が主語となる学校づくりに向けて、「授業へのICT利活用をうまく取り入れ、子どもたちにこれからの社会の発展を担っていくための力をしっかりと育みたい」と意欲を語った。


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吉岡町立 明治小学校
1873年創立/児童数649人/榛名山の南東麓に位置する歴史と伝統のある学校。保護者や地域の学校教育に対する関心は高く、2021年度から学校運営協議会、翌年には地域学校協働センターが発足して地域と共に教育の充実を図っている。

発行:2024年1月 ※先生・児童の所属・学年などは取材時のもの
取材・文/藤崎雅子 写真(校舎)/中村かをり

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