【鹿児島市立吉田南中学校】ICTで生徒同士の考え方をつなぎ活気あふれる対話を生む授業(2学年 数学)

授業実践(中学校)

コロナ禍以前よりICTの利活用に取り組んできた鹿児島市立吉田南中学校。GIGAスクール構想の前倒しにより、「さらに授業がやりやすくなった」と語る数学科の白石圭太先生の授業をレポートします。


白石圭太 教諭(数学)
教員歴14年目。初任時代、生徒たちに厳しく指導していたが、「楽しい授業をした方が生徒が興味を示すのでは?」と考え、授業方法を転換。以来、生徒も自身も楽しめる授業を実践している。

問いの発信、解答、集計、考え方の共有、発表…。授業テンポが以前より加速

吉田南中学校のある鹿児島市では、GIGAスクール構想以前からICTの利活用に比較的早く取り組んでおり、中学校には一人1台ノートパソコンを配備し、県内の高校に進めば高校卒業まで使えるアカウントを生徒たち全員がもっている。

こうした市のICT環境配備を背景に、吉田南中学校ではクラウド型授業支援アプリを使用した授業が実践されている。先生から生徒への問いの発信や、生徒からの提出物、生徒同士の考え方の共有など、多様に活用している。また、数学、英語、音楽はデジタル教科書を導入。白石圭太先生の授業では生徒たちは紙の教科書は持参していない。

「教科書にはすべてが解説されているため、生徒に考えてもらいたい箇所を隠して問いにするなど、自分なりの授業をするために今まではプリントを作っていました。ICTを使うことで、プリントを印刷したり配付したりする時間が省けます」(白石先生)

この日の白石先生の授業は、「一次関数をグラフから読む」単元。それまでの授業で生徒たちは、式や表からグラフを書くことは学んでいた。

最初は復習の小テストから授業がスタート。授業支援アプリで生徒たちに6問の問題をその場で配信。生徒たちは自分のパソコンに送られてきた問題を解いていく。個々の生徒が解答すると、アプリで全員の正誤を集計。各問いで何人が正解できたかが、瞬時にグラフ化され教室のモニターで共有できる。

「じゃ、隣と確認して」と、白石先生が声をかけると、小テストの答え合わせや解き方など、隣の席の仲間との対話が始まる。1分程話し合った後に、全体での答え合わせをしていく。授業開始からここまでにかかった時間はわずか5分。ICT活用ならではの密度の濃い授業導入だ。

小テストが終わると本日の単元の本題に。デジタル教科書の該当ページを開く指示をした後、「グラフから一次関数の式を求める際、どこに注目すればいい?隣の人と確認して」と白石先生。再び、生徒同士の対話が始まる。

グラフから式を求める基本を理解したところで、先生が例題の2問のカードを生徒に配信する。生徒たちが考え始めると「困ってる人は言ってね」と先生が声をかけ、数人の生徒が挙手。「終わった人は教えてあげてね」と言うと、解答できた生徒たちが自然に席から立ち上がり、困っている生徒のもとへ動く。次第に教室のあちらこちらで教え合う声が響き、にぎやかになっていく。

「わかんないでーす!」「なんで?」と、友達同士だから素直で気軽に質問できている様子の生徒たち。教えている生徒も「(x軸が)2行って(y軸は)1下がるから、傾きは…」など、パソコン上のグラフを指しながらわかりやすく説明している。

今度は先生が新たなグラフを教室のモニターに映し出し、「このグラフと問いのカードを送るよ。さっきまでのグラフとの違いを考えて問いに答えて提出して」と声がけ。生徒たちのパソコンには2枚のカードが送られてきた。1枚は目盛りやマス目のないグラフ、もう1枚は「__が分からない…。だけど、直線の__と通る点が分かっている!」と書かれた問いのカードだ。グラフから式を求める際の考え方について、生徒たちは下線の箇所に該当する言葉を考え、カードに記入してパソコン上の提出ボックスに送る。「みんなの意見を見てみようか」とモニターに注目を促すと、解答した生徒たちの答えが一覧となって映し出されている。この時点ではまだ解答できていない生徒もいるが、みんなの意見を確認しながら先生が「動いていいよ!」と声をかけると、また自由に教室内を生徒たちが歩き出す。


小テストに生徒が解答すると、瞬時に正答率が集計され共有できる。


目盛りもマス目もないグラフの式をどう導くか。解き方を導く問いを投げかける白石先生。


先生からの問いには、自分で考えた後に、解き方や答えを隣の生徒と確認し合う。


基本は生徒たちが自ら解き方に辿り着くこと。教室内を自由に動き、困っている生徒を助けに行く。


誰がどんな考え方をしているか、みんなの意見は一覧で共有することができる。

演習や生徒同士の対話が多く、思考をフル回転させる場面が多数

このように白石先生の授業では、先生が問いを出すと、最初は個人で考える。次に隣の人と解き方や答えを確認し合ったり、解き方がわからず困っている生徒がいれば、生徒たちは自由に他の生徒に聞きに行ったり、解けた生徒が自ら教えに行く学び合いの流れが基本となっている。先生の説明を聞く時間、自分で考える時間、仲間と活発に対話する時間のメリハリで、授業がテンポ良く進んでいく。

さまざまなグラフから一次関数の式を求める方法を全員で確認した後は、演習の時間。順々に送られた演習問題カードは3問。それぞれ問いと小さなグラフ用紙が書かれたカードだ。最初の問いは「点(-2、-4)を通り、傾き3の直線」、2番目は「点(2、4)を通り、傾き3の直線」、3番目は「点(-1、2)を通り、傾きが-2/3の直線」と次第に難易度が高くなっていく。白石先生は各問いの提出状況を見ながら、次の問いを出す。授業支援アプリを活用すれば提出された個々の解答を確認しながら進められる。

最初の問いでは用意されたグラフ用紙に簡単に直線を再現できる。2番目は与えられた点と傾きから次の点を探そうとすると、グラフ用紙からはみ出してしまう問い。3番目は傾きが分数で、切片が目盛りの途中になることから、グラフからは切片が読み取れない問いだ。2番目と3番目の問いを出す際、白石先生は「ちょっと意地悪してるよ」と難易度を上げていることを示唆していた。

生徒たちはパソコン上でグラフを書いたり消したりして、試行錯誤しながら問いと格闘していく。書き消しが簡単に何度もできるのもパソコンならではの利点だ。難題に悪戦苦闘する生徒が多く、先生にヒントを求める姿も。

「目盛りがない場所が切片なんだから、目盛りを読もうとしない方がいいよ」と先生からアドバイスされると、「どういう意味?」とさらに食いつく生徒もいれば、「目盛りを読まないなら、数字を読む?」とヒントをもとにがんばって考え始める生徒もいた。それぞれの考え方で思考をフル回転させている生徒たち。仲間と喧喧囂囂、知恵を合わせて考える生徒、一人で黙々と取り組む生徒など、考えるスタイルもそれぞれ。パソコン上で多様な解き方を見せていた。果たしてどの解き方が正解に結びつくのか。しかしここでタイムアップ。

「一次関数にはグラフをもとに読み取る以外の方法があったはずだよね。次回はいろんなものを使って解決していきます」と白石先生は50分の授業を締めくくった。

生徒同士が学び合う授業の基盤とICTの有効性が良い化学反応を生み出す

この授業の間、白石先生は板書を一切せず、先生からの発信はすべて授業支援アプリから行い、生徒たちの机の上も、多くがパソコンのみ。既にパソコンがノートやペンと同様に文房具として定着しているのだ。

ICTを使うことで、プリント配付などの時間が割愛される分、生徒同士の協働や演習を多くできている印象があった。しかしそれは、白石先生がICTを使う前から生徒同士の学び合いの授業を実践してきているため、生徒が意見を発しやすく、テンポの良い授業が日常化していることも大きい。先生の授業力とICTの相乗効果で創出された時間により、演習問題に十分時間が確保され、知識の定着や応用を授業内で取り組めるようになったようだ。

さらに、最後の難問の解き方と答えを次回にもちこしたことで、授業が終わった後も生徒たちがパソコンを持ち寄って話し合っていることが印象的だった。

「数学は連続性のある教科なので、演習問題は難易度のステップがつけやすいのです。『意地悪な問い』と言って出すと、生徒たちは『解いてやる!』とやる気を出してくれます。例えば今日の一次関数だと、教科書では代入して解く方法しか出てきません。でも解き方がいろいろある一次関数の本質を知ってほしい。さまざまな解き方を知ると、数学の苦手な生徒が一番早く答えに辿り着く場合もあります。考えることを楽しいと生徒が感じるような授業を、ICTの利点も活かしながら心掛けています」(白石先生)

自分なりの考え方で答えに辿り着こうとする生徒たち


傾きをもとにマス目を数えて切片を求めようとしている生徒。


傾きの比例から切片を求めようとしている生徒。


条件を対応表に代入して、切片を求めようとしている生徒。


整数ではない切片を求めようと、自分で目盛りを打つ生徒も。

生徒同士の考えをつなげ、思考を深めたり広めたりすることにICTは有効

取材当日、松元智宏先生が行う国語の授業も参観させてもらった。単元は「用言の活用」。活用の種類について学んだ生徒たちに、演習としてグループでミッションに応えてもらう授業だ。例えば、「『略する』、『属する』などの言葉は①どのような法則で表現されているか説明せよ。また、②他にどのような例があるか言葉を挙げよ」、「『すごい面白かったです』を正しく直し、なぜ間違っているかを【活用形】を使って説明せよ!」などミッションの種類は4つ。

班内でミッションを分担し、まず個人で考えてから、同じミッションの担当者同士に分かれて話し合いで考えをまとめ、再び元の班に戻って、学んできたことを発表する、いわゆるジグソー法を活用して行われた。各ミッションの代表者が解答を発表し、最後に振り返りの小テストを行い授業は終了した。


ジグソー法で進められた松元先生の国語の授業。パソコン上で自分の考えを書きながら、班ごとに活発な意見交換がされていた。

松元先生もほぼ板書はせず、ミッションや小テストの提示や送付、生徒同士の話し合い、発表も授業支援アプリで実施していた。ICTを使うことで、挙手では発表しにくい消極的な生徒の声も届くため、全員の意見を共有しやすい。また、書いた内容を消したり、消した内容を復活させることもできるので、議論の過程で試行錯誤しやすいメリットがある。また、提出内容を大型モニターに映し出せるため、模造紙などに書かずともすぐに発表ができる。

ICTは従来の授業に使ってきたアナログの道具の代わりとしても有効だが、松元先生は生徒同士をつなげることに有効活用している。

単元ごとに生徒全員が取り組む共通の学習課題があるが、松元先生は「わたしの学習課題」という生徒一人ひとりが問いを立てて解決する取組を行っている。例えば、『枕草子』を学ぶ授業では「清少納言と自分のものの見方や考え方を比べる」という単元がある。このとき「清少納言にならって見つけた“わたしの『○○○』”を語り合おう」と単元の副題を設定した。すると生徒たちは、「清少納言の『ありがたきもの』と現代の『ありがたきもの』の違いを知りたい」など、「わたしの学習課題」を決める。これを単元ごとに行っているのだ。

「『わたしの学習課題』を授業支援アプリで記入すると全員に共有されるので、仲間の課題も見ることができます。自分と似た課題の仲間を見つけてコラボして学ぶなど、ICTを使うことで生徒同士の考えをつないだり、対話が生まれています」(松元先生)

一人ひとりが自分の興味から生まれる問いで単元に向かうことは、個別最適な学びとなり、「わたしの学習課題」で調べ、考えた答えを共有することで、共通の学習課題を解決する協働的な学びにつながっていく。

「ICTを利活用して、クラス内や学校内だけでなく、他校ともつないで生徒同士の討論会などもやってみたいですね。本校でも英語科は既に実施していますが、国語でも『地域の良さをアピールしよう』という単元があるので、他県の生徒とつないでやってみたいですね」(松元先生)

「授業での利活用とともに、私は他校や他県の教員同士でICTを使ってつながってみたいです。問いや学習課題を出し合って共に考える、教員ネットワークをつくってみたいですね」(白石先生)

校長の視線

未来の創り手に必要な資質・能力を育成する授業にICTは有効

本校は鹿児島県総合教育センターの研究連携校として授業研究を行い、毎年研究授業公開を実施しております。今年度は「未来の創り手に必要な資質・能力を育成する学習指導」を研究主題として取り組んで参りました。なかでも、生徒の「自律性」に注目し、「生徒が自らの学習のエージェントとなる授業デザイン」を研究の副題に設定して進めてきました。

授業にICTを活用することで、生徒全員の学びの状態を、こぼすことなく教員が手に取るように把握できることが大きなメリットと感じています。授業中に手を挙げて発表することはできなくても、パソコンのノートになら自分の考えを書き込めて、先生や仲間に伝えられるからです。以前よりも生徒たちに、自分の考え方を伝えたい意識が高まっているように感じます。また、生徒同士がお互いの考えをつなげて対話したり、困っていることがあれば助け合うことが容易になっています。ICTは教員と生徒、生徒同士をつなぐ良い手段となり、自律性を育む授業に役立っていると感じます。

スマホなどICTは元々子どもたちと親和性が高いツールです。先生と生徒が上下関係ではなく、ICTを使った授業やルールを共につくる関係に変わってきています。そして先生がそれを楽しんでいる姿が生徒に響きます。難しく考えずに、生徒と一緒に始めてみるといいかもしれません。


鹿児島市立吉田南中学校
向田伸子校長


鹿児島市立吉田南中学校
1947年創立/生徒数220名(男子111名、女子109名)/鹿児島市北部の大原台に位置し、学校の敷地内で縄文前期の吉田式土器や旧石器時代の土器が発掘され、大原遺跡として著名。1984年度から鹿児島県総合教育センターの研究連携校として、先導的な研究の推進を行っている。


発行:2022年1月
取材・文/長島佳子 写真/木原一大 デザイン/渡部隆徳、熊本卓朗(KuwaDesign)

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