大阪府大東市に位置する北条中学校。同校は、「学校の授業は分かるけれど、家に帰ると忘れてしまって学習が定着しない」という課題を感じていた。各教員が工夫を凝らして宿題を出していたものの、その多くは問題を解かせる「アウトプット」型が多く、つまずいた生徒が自ら学び直すための「インプット」の手段が不足していたのだ。
この状況を打破すべく、同校は講義動画で手軽にインプット学習ができる『スタディサプリ』の導入を決断。導入初年度のゴールデンウィークには、クラス対抗のキャンペーン「スタサプ王選手権」を実施し、生徒たちの学習意欲に一気に火をつけた。結果として家庭での学習時間が増加し、3年生を中心に全体の学力底上げという確かな成果を生み出している。
スタディサプリをいかにして生徒の日常に落とし込み、効果へとつなげていったのか花澤校長と、本実践を推進した西村先生に、実践の軌跡と教育への想いをお聞きしました。
【左:西村先生 右:花澤校長】
家庭学習における課題:「インプット」できる環境を家庭に
——スタディサプリ導入前、学校としてどのような課題を抱えていたのでしょうか。
花澤校長「本校では、家庭学習の定着に課題があると感じていました。先生方は色々な課題を設定して家庭学習として提供していましたが、学習した内容を『アウトプット』するものが多く、『インプット』するための課題が少ない状態でした。そうなると、学校の授業ではよく分かっても、家に帰ったら忘れてしまって“わからない”という子どもたちにとっては学習の定着が難しいのではないかと思いました。そこで、インプットができ、講義動画が視聴できるスタディサプリがあれば、子どもたちの学習の定着というハードルが少し下がるのではないかと考えたのです。」
西村先生「以前勤務していた別の学校では、受験が近づくと塾に行く子が増える傾向があったのですが、本校は少しそういう比率が少ないのかなと感じていました。そのため、塾に行かなくても満遍なくいつでも振り返れるものがあって、受験生になった時にもう一回見直せるような、勉強の取っ掛かりが欲しいなと思っていました」
生徒を巻き込む仕掛け:「スタサプ王選手権」の誕生と即断即決の学校経営
——導入してすぐに生徒たちが自発的に使い始めるのは難しいと思いますが、どのように活用を促したのでしょうか。
花澤校長「4月頭に導入が決定し、子どもたちにアカウントがあることは宣伝していましたが、すぐに自らサプリを使う生徒は少ないだろうと思っていました。せっかく導入したのに使わないのももったいないという中で、西村先生が『子どもたちがまず触る仕掛け作りをやります。スタサプ王選手権をやります』と私のところに持ってきたんです。
私は即座に『やろう!』と答えました。私は基本的に教員の提案に『NO』を言わないんです(笑)。面白そうだからやってみようと思いますし、まずはやってみないとわからないことがあります。」
——それはすごいですね。ちなみに、西村先生はどのような背景からスタサプ王選手権を考えられたのですか?
西村先生「『子どもたちがサプリを使ってみること』が最優先だと思ったので、ゴールデンウィークの前後に全校集会を開き、『見た時間と解いた問題数でランキングをつけます』というキャンペーンを実施しました。勉強の仕方がまだわからない生徒もいますので、まずは動画を見る経験をして、それがいいと思えたならそういう勉強方法をとっていってくれるといいなという思いがありました。また、クラス対抗などの単位にすると集計もしやすく、誰かがやっていると(クラスのために自分もと)自然と引っ張られてやってくれそうだという狙いもありました 」
——ランキング形式にすることで、プレッシャーを感じる生徒はいませんでしたか?
花澤校長「ネガティブには感じていなかったと思います。逆に本校の子どもたちの良さかもしれませんが、『頑張る子を認める』という風土がすごくあるんです。こういった取り組みの物珍しさもあって皆がアクセスし、『誰々がめっちゃやってる!すごいなあ!』と称賛する表現がいっぱいありました。また、ゲーミフィケーションの『サプモン』の機能も使えるようにしたので、学習への動機づけという点でも子どもたちの受けが良かったのはポイントですね」
生徒の変容と成果:「動画で見たことある」がもたらす授業の変化と学力のボトムアップ
——実際にスタディサプリを活用し始めてから、生徒の学力や学習意欲などに変化はありましたか?
西村先生「『動画で見たことある』ということが、一番のキーワードですね。それがあるだけで、授業で全くわからない状態から想像を始めるのではなく、『あ、これか』と理解して授業の話の流れについていける子が増え、明らかに手応えは変わりました。また、配信については授業ごとにこまめに出すよりも、単元前にまとめて動画を出す方が、一度やり始めるとその集中のまま、次々に学習がされるので理解や吸収が良いような気がしています。ドリル系の確認テストなどは、市から導入されているデジタルドリルがあるので、そちらと並行してすみ分けをしながら活用しています」
花澤校長「結果として、3年生などは数値として学力が向上しました。数学については、学校の課題設定に対して『スタサプを見てクリアしてこないと課題に挑戦できない』という仕組みづくりをしてくれていて、学習意欲や習熟度が上がり数値も伸びたと思っています。これまでは問題を解かせるアウトプットが主でしたが、今年はインプットにアプローチしたことでの変化かなと思っています。また、サプリを通してのインプットにより、授業の流れについていける子が増えたため、読解の問題なども上手に読み取れるようになった子が増えたと考えています。全体の底上げになってきている印象です 」
理想の反転学習と今後の展望:全国の教育関係者へのメッセージ
——最後に、今後の展望と、同じような課題を抱える全国の先生方へのアドバイスをお願いします。
西村先生「純粋に、ちゃんと『反転学習』が1単元通して流せるようになればいいなと思っています。ただ『動画を見ておいで』だけではどういうインプットがなされたかわからないので、“インプットしたものを表現し、各自で持ち寄って交流する”、反転学習をすることにちゃんと価値づけがされたものが1つの形になれば良いモデルになるのかなと思っています」
花澤校長「インプットを家庭で行い、アウトプットして交流し深めるのを学校で行う形ができれば、授業の中での対話の時間を今の半分からもっと増やしていけます。今年は『子どもたちが使う』ことに重きを置いたので、次は支援学級での活用なども含めて『先生方がうまく活用する』フェーズに持っていきたいです。子どもたちから『誰々先生からこれだけ配信がありました』と報告を受けるような逆スタサプ王(先生版のスタサプ王選手権)をやれるかもしれないですね(笑)。
全国の同じような課題で悩んでいる先生方に向けては、『思いついたらやってみましょう』とお伝えしたいです。思いつくということは、子どもたちのことを考え抜いた上で出てきたアイデアだからです。周りの意見で潰されることもあるかもしれませんが、まずはやってみて、検証して、失敗だったらまた考え直せばいい。挑戦し続けることが我々には必要なのだと思います 」
取材を終えて
今回の取材を通して最も強く感じたのは、北条中学校の先生方が持つ「生徒の力を信じる姿勢」と、「まずはやってみるという軽やかな行動力」です。
「スタサプ王選手権」というユニークな取り組みは、単なるスタディサプリ活用のイベントにとどまらず、生徒たちの「学びに向かう力」を自然と引き出しました。そして何より、家庭での「インプット」が定着したことで、教室に「あ、これか!」という生徒の輝く表情が増え、授業での生徒の姿が変わり始めているという事実は、全国の教育現場にとって大きな活用のヒントとなるはずです。
花澤校長の「思いついたらやってみましょう」という力強いエール。その言葉の根底には、目の前の子どもたちのために考え抜いた先生方の想いに対する、深いリスペクトがありました。ICTの導入や活用に、たった一つの正解はありません。だからこそ、失敗を恐れずに、まずは第一歩を踏み出してみる。その挑戦の積み重ねと、生徒の頑張りを素直に称賛する温かい風土こそが、これからの新しい学校教育を創っていくのだと、力強く背中を押されるインタビューでした。
学校プロフィール
- 学校名:大阪府大東市立北条中学校
- 教育目標/校訓:
- 【校訓】
『自主・協同・創造』 - 【教育目標】
「自ら・ともに」
〜人権を大切にし、自らの意志で行動でき、仲間とともに学び続ける人間の育成〜 - 【基本方針】
- 生徒一人ひとりを大切にし、すべての教育活動を通じて確かな学力、豊かな心、健やかな体を育成するとともに、自他を大切にする姿勢や人とつながる力を育てる

