【若狭町立上中中学校】探究学習「My探究」を展開し、 生徒一人ひとりの個性を伸ばす教育を実践

若狭町立上中中学校では、独自の探究学習「My探究」を一つの軸とした、生徒一人ひとりの個性を伸ばす教育を展開しています。生徒が存分に自分らしさを発揮した発表会の様子をレポートするとともに、「My探究」担当の先生、校長先生に、取り組み内容や成果、今後の展望などについてお聞きしました。

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目指す生徒像が体現された学校独自の探究学習を確立

現在の「My探究」は、総合的な学習の時間で行われているが、もともとは「蝶ノート」と呼ばれる生徒会の取り組みから始まった。「蝶ノート」は、生徒が教科に関連することにとらわれず自分の好きなことについてノートにまとめるというもの。それが「総合的な学習の時間で実践してみよう」という話になり、部分的な導入を経て、総合的な学習の時間のメインの取り組みになった。「もちろん生徒の反応がよく前向きに取り組んでくれたことが発展の要因なのですが、『社会の中で自分らしく生きるための資質・能力を育てる』という本校の教育目標に沿った内容であることも大きかったと思います」と「My探究」担当の窪田朋亮先生は振り返る。

取材当日は、1・2年生による「My探究」の発表が行われた。上中中学校の1クラスの人数はおよそ30人。教室を半分に区切り、1人6分の持ち時間でポスターを使って発表した。生徒たちは、「好き・興味」「問いが生まれるまでのストーリー」「自分が考える問い」「調査・分析」「今後行いたいこと」といった項目を設定して説明する手法を授業の中で学んでいて、これらの項目を軸に体系立てて話を展開した。発表する内容は「自分が好きなもの」であること以外は自由。テーマは多種多様で、ゲームに登場する料理を現実の世界で再現する、色の相性の良さとは何かを追究する、自分が取り組んでいる競技のパフォーマンスを上げる方法を研究するなど、一人ひとりの個性が反映された発表が繰り広げられた。中にはポスターだけでなく、実験で使用した機材や自作の製作物を持ち込んでデモンストレーションを披露する生徒もいた。自分が関心を持っているテーマについて話す生徒の表情は皆いきいきとしていて、仲間の発表を聴く生徒も、肯定的な関心を持って熱心に耳を傾けている様子だった。

生徒自身での振り返りは、学校の目指す生徒像である「自律・協働・創造」を反映したレーダーチャートを使用して実施。「自律」では「目標を立てる力」や「計画する力」、「協働」では「意見を伝える力」や「他人の話を聞く力」、創造では「新しいアイデアを出す力」や「工夫する力」などの評価項目があり、「自律」「協働」「創造」の3カテゴリーに全15項目が設定されている。さらに、項目ごとの具体的な到達レベルを4段階に整理したルーブリックを学校独自にまとめており、個人の主観による評価基準のずれを軽減している。またレーダーチャートをまとめるシートには、生徒が自身で「伸ばしたい力」を記入する欄を用意。生徒が目標を自己認識し、教員とも共有することで、「自律」「協働」「創造」の三本柱を軸にした成長のサポートを可能にしている。

「My探究」担当として、実施の中心的な役割を担う窪田先生に、取り組みの狙いやこれまでの経緯、今後の展望などについてお聞きした。

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食品やゲーム、コスメ、スポーツなど、生徒にとって身近な分野と関わるテーマを中心に、生徒の個性を反映した発表が繰り広げられた

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聴いている生徒は、一人の発表が終わる度に、6つのチェック項目の評価と感想を入力し、その場で送信する

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「My探究」担当:窪田朋亮先生

「総合的な学習の時間で『My探究』を実施するのは、今年度で4年目になります。途中で、地域の課題について探究する『ふるさと探究』、自身のキャリアについて探究する『キャリア探究』を導入するなど、毎年振り返りをしながら内容をアップデートし、今年度は、生徒の個性を伸ばすことをより重視して、好きなもの・興味のあるものについて発表するかたちになりました。ただ『テーマを自由に決めていい』という類の課題については、自分でどんどん進めていける得意な生徒がいる一方で、最初のテーマ設定で悩んでしまう生徒も多くいます。『My探究』を推進していく上で、そうした生徒へのサポートが一つの課題になっていました。

そこで役に立ったのが、『スタディサプリ』の『探究講座』です。問いを立てながら自分の興味を深掘りしていくといったワークは、一からつくるとたいへん労力がかかりますが、『探究講座』では説明資料と記入用のシートがパッケージ化されていて、資料づくりにかかる手間を大幅に軽減できました。活用のしやすさも申し分なかったです。

おおよその生徒がテーマを設定し終えた後は、クラスや学年の垣根を越えた10人程度のチームを編成し、それぞれに教員が付いて探究を進めるかたちをとりました。生徒のテーマはそれぞれ異なりますが、料理系、メディア系といった同系に分類できるものもあります。料理系のチームが家庭科室を使うなど、それぞれの探究内容と親和性のある活動場所を設定すれば、生徒同士で必要な設備や用具を共有しやすく、自分と近いテーマに取り組む生徒が近くにいることでインスピレーションを相互に受けやすくなったり、相談し合ったりといった相乗効果も期待できます。また通常のクラスとは異なる編成をつくったことで、『あそこのグループの生徒が何かおもしろそうなことをやっている』といった教員同士のコミュニケーションが活発になり、教員にとっても指導の悩みを一人で抱えることなく進められるメリットがありました。

個々の探究学習がある程度進んだ2学期に生徒に書いてもらった振り返りシートを集計したところ、生徒が自身で『伸ばしたい力』として考えている項目のうち、圧倒的に多かったのが『実行する力』でした。主体的に取り組む探究学習を通じて、『自分から動くこと』への意識が高まったのは、大きな成果といえます。学校評価アンケートでも、『自ら課題を見つけて探究活動に取り組むことが出来た』と回答した生徒が令和5年12月の調査で37.7%だったのに対し、令和6年12月の調査で50.8%になるという結果が見られました。生徒の主体性の成長は、データ上だけでなく、具体的な行動にも表れています。その顕著な例が学習委員会活動です。宿題や校則の在り方について意見を収集してまとめるなど、自分たちに関わることについて生徒が自分から考える行動が見られたほか、クラス対抗で学習時間を競うスタサプ大会を生徒が企画するなど、本校が育成を目指す『自律性』も垣間見えました。今年度も着実な成果があった『My探究』ですが、来年度以降もこれまでの成果を踏まえてアップデートしていく予定です。ルーブリックも一度つくったら完成ではなく、到達したレベルからさらなる成長を目指せるように評価基準を改めていく必要があります。来年度は、社会で求められるICTリテラシーの獲得やAIの特性に関する理解を促す目的で、生徒に生成AIを活用してもらうことも検討しています。『生徒に対しどのように伴奏していくべきか』という根幹的な部分も引き続き大事にし、弛まず研鑽を重ねていきたいと考えています」(窪田先生)

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学習委員会の活動の中で、生徒たちは理想的な宿題や校則の在り方について、教員や保護者からも意見を集め客観的に検証した

一人ひとりのカラーを大事にする学校経営が、成長の土壌をつくる

「My探究」は、まさに上中中学校の目指す生徒像「自律する生徒」「協働する生徒」「創造する生徒」を志向し、教育目標「社会の中で自分らしく生きるための資質・能力を育てる」を体現する取り組みといえる。同校では、生徒だけでなく教員も全員が「My研究」と題し、自己研鑽に励んでいる。テーマは基本的に自分の業務に関わる内容で、ICTの活用方法、自由進度学習、書類作成など分野はさまざま。大谷由喜男校長自身も「生徒が親しみを持ってくれるような校長室経営」というテーマで「My研究」に取り組んでいる。生徒、教員ともに「一人ひとりのカラーを大事にする学校でありたい」と語る大谷校長に、学校経営、教育への思いをお聞きした。

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若狭町立上中中学校 大谷由喜男 校長

「『My探究』は、生徒の個性を大切にする取り組みですが、私は先生方のカラーも同様に大事にしたいと思っています。先生方とコミュニケーションをとる際は、『私の考えはこうだ』と一方通行で伝えるのではなく、『私はこう考えていますが、先生の考えはどうですか?』といったように双方向の対話で進めるスタンスを守っています。もちろん校長として学校経営の根幹を担う部分は私から発信していますが、具体的な取り組みの内容や方法はできるだけお任せするようにしています。学校をよりよくするために積極的にアイデアを出してくれる先生も多く、教員が『My研究』をやるという案も、先生からの発案で実現しました。『My探究』の主体的な学びは生徒に着実に浸透しており、生徒の発表を見ていると懸命に伝えようとする姿にいつも感心させられます。『My探究』はまだ完成系ではなく今後もアップデートしていく必要がある取り組みですが、成果は確実に表れていると確信しています。先日も3年生が高校入試の面接の練習をするのに面接官役を務めたのですが、おそらく本人がまったく予想していなかった質問を投げかけられたのにも関わらず、懸命に考えて答えてくれました。そうした積極的な姿勢で対応できるのも、『My探究』の賜物であるに違いないと感じています。自ら考えてつかみ取ろうとする態度は、まさに新しい時代の人材に求められる資質といえます。学校の役割はそれを存分に伸ばせる環境を整えることです。効率よく知識を伝えるのではなく、試行錯誤しながら自分を高めようとする生徒を適度な距離でサポートする。『My探究』をはじめとした取り組みをさらに充実化させ、本校が目指す生徒像を追求する教育を推進していきたいと考えています」(大谷校長)

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若狭町立上中中学校
1951年創立/生徒数191人

旧上中町のほぼ中心に位置し、背面を山に囲まれた自然豊かな環境。校訓は「自主・自律」。学校の教育目標に「社会の中で自分らしく生きるための資質・能力を育てる」を掲げ、独自の探究学習「My探究」を一つの軸にした、生徒一人ひとりの個性を大事にした教育を展開している

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