複式学級という環境の中で、いかにして子どもたちの可能性を伸ばす授業を実現するか。異なる学年を同時に指導する難しさの中で、鹿児島県志布志市立原田小学校の佐々舞先生が見出した一つの答えが、「個別最適な学び」です。
当初、抱いていた「ICTへの苦手意識」と「指導への悩み」を乗り越え、『スタディサプリ』を活用した個別最適な学びの実践についてお聞きしました。
■ ICTが苦手だった私が、ICTを活用した「個別最適な学び」にたどり着くまで
「正直にお話しすると、私自身、ICT機器を使うのがすごく苦手だったんです」
そう笑顔で振り返る佐々先生。原田小学校で4年目、元々、特別支援学校での長い経験をもつ佐々先生が担任を受けもつのは、3年生と4年生が同じ教室で学ぶ「複式学級」だ。
異なるカリキュラムを同時に進行させなければならない複式学級では、その授業づくりに特有の難しさがある。特に算数において、基礎学力の定着を目指したい3年生と、自ら学び進める力をさらに伸ばしたい4年生の実態に、どのような授業づくりが良いか悩んでいた。
「4年生の子どもたちは好奇心旺盛で、自分たちで進める力を持っています。その力をもっと伸ばしていきたいと考える反面、3年生には丁寧に基礎学力の定着につながる指導も必要です。様々な実態の子どもたちに対して、この両立をどうすれば実現できるのか、ずっと模索していました」
転機となったのは、1学期に視察した他校の実践や事例発表だった。そこで見たのが、子どもたちがICTを活用した「個別最適な学び」。
「これと『スタディサプリ』を組み合わせれば、子どもたちに合った授業をつくることができるかもしれない」。そう直感した佐々先生は、市教育委員会や同僚の先生方のサポートを受けながら、授業スタイルの変革に踏み出した。
「子どもに任せる」という決断
佐々先生が取り組んだのは、単元の学習計画を一定程度子どもたち自身が主体的に組み立てるスタイルだ。授業の枠組みとしては、「この日のこの時間までに、ここまで終わらせよう」という明確なゴールを佐々先生が提示する。その上で、ゴールに向けた学習計画やペース配分は子どもたち自身が決定する形式をとった。
子どもたちは『スタディサプリ』の講義動画を視聴し、教科書の問題を解き、理解度をチェックしてワークシートにまとめる。教師が前で一斉に教えるのではなく、個々の進捗を見守り、必要に応じてサポートを行う「伴走者」としての役割に徹することにした。
実際に佐々先生が実践したスタディサプリを活用した個別最適な学び(略案)
当初、佐々先生には大きな不安があったという。
「本当に子どもたちだけで進められるのか、遊んでしまわないか、やったつもりになってしまうんじゃないか……。最初は『ここはここまで』と細かく管理しようとしていたんです。でも、指導主事の先生から『もっと子どもたちに任せてみたほうがいい』とアドバイスをいただいて、思い切って彼らに任せることにしました。私にとっては大きな決断でした」
講義動画を「早送り」「巻き戻し」。自分に合った学び方を確立
いざ実践してみると、4年生の子どもたちは自ら学び方を工夫し始めた。「ノートを取りなさい」と指示しなくても、講義動画の重要なポイントを自ら書き留める。理解できている部分は早送りし、分からない部分は何度も巻き戻して視聴する姿があった。
「この学習スタイルを取り入れたことで、子どもたちは『自分に合った学び方』を自ら見つけ出すことができたのだと思います。講義動画をどう使うか、友だちとどう関わるか。試行錯誤する中で、それぞれのペースで楽しみながら、一人ひとりが自分なりの学び方を確立していきました」
誰かがつまずいていれば、自然と「ここはこうだよ」と教え合う姿も見られた。教師が前に立って一斉授業を行わなくとも、そこには確かな「学びの空間」が成立していたのだ。結果として、単元末のテストでは6人中5人が90点以上を獲得。従来の授業スタイルと変わらない、あるいはそれ以上の定着度を示した。
しかし、佐々先生が何より手応えを感じたのは、数字には表れない子どもたちの変化だった。
「点数以上に嬉しかったのは、子どもたちが『自分のペースで学べて楽しかった』『動画が分かりやすかった』と言ってくれたことです。自分たちでできた、という実感が、彼らの自信につながったのだと思います」
「書く力」の向上と、教師の役割の変化
この導入は、子どもたちの「振り返り」の質も変えた。以前は「今日の授業はわかった」といった抽象的な感想が多かったが、取り組み後は「この問題の解き方が難しかったけれど、動画のここを見て理解できた」「ここを工夫することで計算が速くなった」など、自分の学びを客観的に捉え、具体的に記述する力が飛躍的に向上したという。
そして何より、佐々先生自身の働き方や意識にも変化が生まれた。「子どもたちが自走してくれるおかげで、私は机間指導に専念できるようになりました。進み方が順調な子は見守り、つまずいている子にはじっくりサポートをする。以前よりも個々に寄り添った指導ができるようになったと感じています」
子どもたちの可能性を広げる授業づくりの土台
現在、佐々先生のこの実践を他学年や他教科にも広げつつある。2年生の長さの単元や、4年生の理科の授業でも動画活用を試みているほか、次年度に向けて5年生の担任とも連携し、複式学級における指導のバトンをつなごうとしている。
「小規模校では、複式学級の経験がない先生が担任になることも多々あります。そんな時でも、このツールと仕組みがあれば、先生方が不安なく子どもたちの可能性を広げる授業が進められる、そんな土台になるといいなと思っています」
最後に、自分と同じようにICT活用や授業改善に悩む全国の先生方へ、メッセージをいただいた。
「人数が少なくても多くても、授業準備の大変さは変わりません。だからこそ、今あるツールにうまく頼っていいと思うんです。子どもたちは、私たちが思っている以上に力をもっています。その力を信じて、まずは『任せてみる』。そこから、子どもたちに合った新しい学びの形が見えてくるはずです」
「任せる勇気」が、子どもの可能性を拓く
志布志市立原田小学校の実践は、複式学級という小規模校特有の環境に対し、ICTツールと個別最適な学び、そして教員の意識変容が有機的に結びついた一つの「解」である。佐々先生が自身の悩みを乗り越え、子どもたちを信じて学びを任せた結果、教室には「自ら考え、学びに向かう」頼もしい姿が生まれた。その成果は、単元テストでの高得点の維持や、学習をメタ認知する記述力の向上など、着実に表れている。
「子どもたちは、私たちが思っている以上に力をもっている」――その確信を胸に、既存の枠組みにとらわれず、目の前の子どもたちにとって最適な学びを追求し続ける同校の教育実践は、同様の課題を抱える全国の学校にとって、確かな道しるべとなるに違いない。
志布志市立原田小学校
校章は鳩の翼の中に「小」を表し,自由と平和と信頼の中に強い信念をもって力強く,はばたこうとする心を示したもので,昭和29年12月11日に制定された。



