【常陸大宮市立山方南小学校】ICTが児童の才能を発見できるツールに。特別支援学級でも個別最適な学びを

授業実践(小学校)

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一人ひとりが学びに向かい、深い学びを追求する児童の育成を目指す常陸大宮市立山方南小学校(茨城県)。ICTの利活用は特別支援学級で特に効果的と語る先生方にお話を伺い、特別支援学級の授業をレポートします。

学校全体が同じ方向に進むために、標準となる型をつくって取り組む

「自ら学び 心豊かで たくましい児童の育成」を教育目標に掲げる山方南小学校。その目標達成に向けて、安全・安心な学級づくり、学びに向かう力の向上、教員の授業改善、ICTの利活用を学校全体で取り組んでいる。
具体的には、常陸大宮市教育委員会が実施したhyper-QUテストの結果を活用し、各教員が自分のクラスの生徒の状況を踏まえた学級づくりを行っている(常陸大宮市教育委員会の取組参照)。
児童の学びに向かう力を高めるために、「みなみっ子 学習の10のやくそく」を作成。各教室に掲示し、学習規律を身につけることを習慣化している。
「本校の校長室には“凡事徹底”という言葉が掲げられています。『みなみっ子 学習の10のやくそく』も当たり前のことばかりですが、当たり前のことを学校全体で同じ方向に向かって歩調を合わせて徹底してやっていこうということです」(松本直人校長)
さらに、「授業中の約束ごと」という細分化した内容も掲示している。例えば意見を述べるときの約束ごととして「困ったときの3つの“せん”」があり、「わかりません」「見えません」「聞こえません」を言いやすい環境をつくっている。

_10各教室に掲示されている「みなみっ子 学習の10のやくそく」

教員の授業改善の施策としては、昨年度に教務主任を中心に「授業の構成スタンダード」を作成し、今年度から運用している。1コマの授業の流れと学習活動例を提示したものだ。
「キャリアによる授業の技量や、現在の学習指導要領で進めるべき学びの解釈にバラつきがあるため、標準となる型があれば、授業に対する考え方を統一できます」(松本校長)

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ICTの利活用は教科や単元ごとに各先生に任せているが、週末の家庭学習用にスタディサプリを活用している。また、市のICT支援員が週に1回学校を訪れ、授業での効果的な使い方を補助したり、先生方の個別の相談に応じたりしている。
こうしたさまざまな取組を進めてきたなかで、児童の変化を松本校長は感じているという。
「子ども同士で話し合いができるようになってきて、トラブルが減ってきました。コミュニケーションが不足するとどうしてもトラブルにつながることがあったのですが、それが少なくなったように感じています」(松本校長)

__3山方南小学校 校長 松本直人先生

児童の個性を尊重した、特別支援学級の算数の授業

学校が同じ方向に進むための取組は、特別支援学級でも同様に行われている。この日は、神長雅子先生が担当する特別支援学級(情緒障がい)の授業を見学した。取材当日は4年生の算数の授業で、男女1名ずつの2名の児童が学んでいた。
黒板に「水が1.23L入っているバケツと4.75L入っているバケツがあります。1つの水そうに入れると、何Lになりますか」と今日の問題が書かれている。神長先生は「授業の構成スタンダード」に則った流れでこの日のめあてである「小数の足し算を考える」ことを伝え、前日に習った小数の計算の考え方をおさらいしながら、それぞれ自分で考えるよう促した。前日に習った解き方は、小数点以下2ケタの数を、0.01の何個分か考える方法、小数を位ごとに1の何個分、0.1の何個分、0.01の何個分と考える方法、図にして考える方法の3つだ。
「自分で解くには何分必要?」と先生から尋ねられると、2人は「5分」と答えて解き始めた。男子児童は前日に学んだ中から図を作って解く方法を試し、ノートにグラフをかき始めた。女子児童は片方のバケツの数値を整数部分と小数点以下に分解して足す方法を試みていた。これは前日に習った中にはない方法だ。

__4今日の問題を提示した後に、前日に学んだ解き方をおさらい。

__4_2自分なりに解きやすい方法でそれぞれ自力解決を進める児童たち。

__64.75を4と0.75に分け、先に0.75を1.23に足した後に、残りの4を足す方法を考えた女子児童。

答え合わせをしたときに、0.01の何個分かで考えて足す方法で神長先生が説明をすると、「そっちの方が難しい」と女子児童は答えた。神長先生は前日に学んだ方法とは違う解き方を考えた女子児童に対し「すごくいいやり方!」と褒めた。自分の考え方の個性を尊重した声がけをされ、児童は嬉しそうな表情を浮かべていた。
小数の足し算を筆算でするおさらいをし、タブレットで演習問題にチャレンジして授業は終了した。

__小数の筆算をタブレットの機能を使って楽しく解けるように工夫した演習問題。当日訪問していたICT支援員が使い方を指導していた。

ICTで児童の苦手分野を補い、得意なことを発見し、個別最適な学びにつなげる

授業終了後に、この日の授業のポイントと、特別支援学級でのICTの利活用について神長先生にお話を伺った。まず、児童が自力解決で問題を解く時間を子どもたちの判断に委ねることに不安を感じなかったのか尋ねてみた。実は図を描き始めた男子児童は当初の5分では描ききれず、3分延長したもののそれでも解き終わらなかったからだ。
「時間は想定内でした。男子児童が図を描き始めたときに(グラフ用紙ではなくノートに描いていたため)、目盛りを正確に全部打っていたら間に合わないなと思ったので、途中で『ごめんね、今日はこのやり方だと間に合わなかったね』と声をかけたら、彼が口頭で『0.01が何個分か』と言い始めたのでそれがわかっていれば良しとしました。女子児童の方は独自の方法でしたが、位を揃えるという考え方は理解していました。別々の解き方だけれどお互いの良さを発揮できてそれに気づいていたことが良かったと思います」(神長先生)

__7特別支援学級担当・神長雅子先生

児童を信じ、それぞれの長所や個性を伸ばす授業を特別支援学級で実践している神長先生だが、10年前に特別支援学級を担当し始めた当初は「通常学級に引けを取らないようにしなければいけない」と考えていた。それが、ある児童との出会いで考え方が変わったという。
「低学年の頃は教室にも入れないし、勉強のスタートラインにも立てていなかった児童がいたのです。ところがその子が高学年になったときにICTに非常に長けていることがわかりました。タイピングも速いし動画検索も優れていて、情報をよく見ているので世事に通じていました。この子は割り算やかけ算は苦手でも、タブレットを使ってできることがたくさんあるので、そこを伸ばしてあげれば良いのではないかと感じたのです。得意を伸ばすことで本人の自信にもつながります。全部の教科ができることを目指すのではなく、自分の個性を伸ばすことが将来の生き方を見つけることにプラスになれば良いと考えるようになりました」(神長先生)
その児童の例のように、ICTを特別支援学級で利活用することは、児童の得意分野の発見や、苦手な部分を補うことに役立っているという。例えばプログラミングができるほどICTが得意な児童は、計算問題は苦手でも図形の単元ではICTを使って合同な部分を見つけて才能を発揮している。また、文字を書くことは苦手だがタブレットでタイピングすることは得意な児童は、ICTを使うことで実はきちんとした文章を書けることに教員が気づける場合もある。総合的な学習の時間に、インターネットで調べたことを地域の現場学習で実際に見たり写真に撮ったりして、レポートをまとめるところまでタブレットでこなしている児童もいる。
「私自身もICTの可能性や利活用を学びながら、支援員さんの力を借りつつ教材を作ったりしています。子どもたちの方がずっと進んでいますし。次々と新しいICTの使い方が出てきますが、子どもたちのプラスになることはどんどん取り入れていきたいですね」(神長先生)

特別支援学級でも家庭学習として毎週スタディサプリから宿題を出している。スタディサプリでは動画視聴の割合やドリルの達成具合がわかるので、児童自身の達成感につながっているという。家庭学習への理解を得るために、神長先生は担当する全児童の保護者と毎週、電話でコミュニケーションをとっている。
「家庭学習のためだけではありませんが、毎時間の児童の様子をすべて記録しているので、1週間分の学校での様子で良かったことや気になったことを報告して、家庭学習で補ってもらいたいポイントなどをお伝えしています。高学年になると学校での出来事を家庭で話したがらなくなる子どもも多いので、保護者からも『先生から聞けてよかった』と言っていただいています」(神長先生)
神長先生が保護者とのコミュニケーションを大切にしているのは、特別支援学級で学ぶことの不安を解消したいという思いからだった。自分の子どもが特別支援学級に入ることで、中学に進学する際に不利にならないかなど心配する保護者も少なくない。しかし、児童一人ひとりの良い所をのばし、個別最適な学びができるのが特別支援学級であることを保護者に認識してもらうために、家庭と学校の連携が欠かせないと考えてのことだ。
「通常学級も同じなのですが、いかに一人ひとりに寄り添った学びを提供できるかが今の学校に求められており、特別支援学級ではより重要です。ICTを利活用することで自分のペースでいつでもどの学年の学びもできます。ICTは特別支援学級では特に効果的なツールなのではないでしょうか」(松本校長)


【学校データ】
常陸大宮市立山方南小学校(茨城県・市立)
2003年開校/児童数74名/明治に創立した3つの小学校が再編され2003年に開校。「よく学び 心やさしく たくましく」を校訓に、自分と仲間の良さを認め合う学校づくりを目指している。

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発行:2024年1月※先生・児童の所属・学年などは取材時のもの
取材・文/長島佳子 

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